2023年もコロナ禍と物価高騰の状態が続き、加えて防衛増税の議論が本格化することから、日本の景気は後退へと向かう可能性が高くなりました。こうした環境の中で会社設立などして事業を成長させるには、その環境に適応できる経営が必要です。
例えば、現状ではサブスクリプション、サステナビリティ、安近短、リベンジ消費、などに対応できることが特に重要となっています。そこで今回の記事では、2023年の予想されるビジネス環境、需要の動向などを示し、それらに対応するためのビジネスのポイントや注意点等をご紹介します。2023年に起業・会社設立や事業転換等を考えている方などは、参考にしてみてください。
1 2023年のビジネス環境とは
まず、2023年に想定される経営環境を確認していきましょう。
1-1 新型コロナ感染の状況
厚生労働省の新型コロナウイルス感染症情報」によると、2023年01月01日版の「新規陽性者数の推移」は以下の通りです。
- 新規陽性者数:86,924人
- 1週間平均:147,372人
- 前週平均:164,342人
- 現在の重症者数:592人(前日比4人増)
- 前日比の死亡者数増:247人
上記の通り、12月後半における国内の新規感染者数は1日に10万人を超えており、危惧されていた第8波が現実のものとなりました。感染者数の割に重傷者数が少ないのは幸いですが、それでも死亡者数は2百人を超えている状況です。
海外に目を向けると中国の状況が心配されます。NHKは2022年12月26日に、中国の浙江省の政府による、一日当たりの新規感染者が100万人を超え(25日に)、年末年始に感染がピークとなり、最大で200万人/日に上る見通しであるとの発表を報じています。
中国のコロナ感染の情報は錯綜していますが、12月末での新規感染者数は日に200万人を超えている可能性が低くありません。
この中国の状況を受け、日本政府は中国からの渡航に対して検疫措置をとることを決定しました。日本の観光産業等にとっては、ようやく水際対策の緩和措置の効果が見え始めたところに冷や水をかけられ、中国からのインバウンド需要の回復が厳しくなりそうです。
また、中国ではゼロコロナ政策が転換され、行動制限が緩和されたことから新規感染者数が増大し、国内の経済活動がさらに打撃を受ける可能性が生じてきました。
そのことで日本から中国への輸出量の減少が危惧されるほか、世界的なサプライチェーンの機能がまた毀損することが懸念されます。このことはエネルギー問題や物価高騰で苦しむ世界経済にさらに打撃を加え、より厳しい状況をもたらしかねません。
1-2 物価高騰の状況
第一生命経済研究所が2022年7月20日に公表している「日米欧の物価上昇率の比較」の資料では、「資源・食料品価格の上昇を背景に世界的にインフレが加速している」と指摘しています。具体的には、日米欧の主要先進国について以下の点が示されました。
- ・6月の米国の消費者物価が前年比+9.1%と40年振りの高水準を記録している
- ・ユーロ圏の統一基準消費者物価(HICP)が同+8.6%と統計開始以来の過去最高を更新した
- ・日本の消費者物価は6月中旬の東京都区部の速報値で同+2.3%、5月の全国平均で同+2.5%であり、欧米に比べると上昇率が限られる。
アメリカのCPI(消費者物価指数)では、消費者が頻繁に購入するものほど値上がりが顕著に現れています。物価算定の基準になっている約580品目の中で、ガソリンや食パンなどの購入回数が平均年15回以上購入される約40品目のインフレ率は、今年の一時期には5%を超えました。
生鮮食品の中では、タマネギが前年比2.25倍、キャベツは約40%も上昇しており、そうした結果、アメリカの消費者物価は2022年において同年前月比で9.1%という歴史的な高水準に達しています。
日本でもデフレ環境から脱しきれていない状況の中で、食料品や日用品の値上げが相次ぎ、国民生活を取り巻く環境は厳しくなってきました。下表は2022年1月~11月の日本の消費者物価指数(総合)であり、2022年は少しずつですが一貫して上昇し続けている状況です。
1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
100.3 | 100.7 | 101.1 | 101.5 | 101.8 | 101.8 | 102.3 | 102.7 | 103.1 | 103.7 | 103.9 |
この物価上昇は1990年代前半以来のことであり、ガソリンや食料品など頻繁に購入するものの値上がり率は高いため、消費者の肌感覚では上昇率は2%どころではありません。
国内の物価高騰の主要因は、エネルギー価格の高騰ですが(前年同月比で16.5%の大幅上昇の月あり)、ガソリンや食品など月1回以上は買う品目は上昇率が5.0%と全体の2倍になっています。
エネルギー価格の高騰が多くの商品・サービスに値上がりに繋がり、小麦粉やサラダ油などの頻繁に購入する食品はインフレが顕著になる前の2倍ほどに達しているケースも少なくありません。
新型コロナでダメージを受けた国内経済は欧米と比べてその回復が遅れていましたが、物価高騰によりさらに遅れる可能性が高まったほか、景気の後退が危惧されます。
新型コロナの感染拡大防止に向けた行動制限が緩和され始め、圧迫されていた消費に勢いが出始めリベンジ消費の伸びが期待されていました。しかし、第8波の進展と上記の物価高騰によりリベンジ消費の勢いが、削がれかねない状況になっています。
1-3 増税の可能性
2023年には防衛増税の議論が本格化します。2022年12月16日に自民、公明両党は2023年度与党税制改正大綱で、防衛費増額に向けた増税方針を盛り込みました。
具体的には、法人、所得、たばこの3税で2027年度に「1兆円強を確保する」と明記しましたが、その導入時期などの具体的な議論は23年に実施される見込みです。
法人税については、本来の税率を変更せず、納税額に特例分を足す付加税方式とし、本来の税額から500万円を引いた金額の4~4.5%が上乗せされます。財務省によると、現在29.74%の法人実効税率が30.64~30.75%に上昇する見込みです。
所得税では、税率1%の新たな付加税を設けるかわりに、現在2.1%の東日本大震災の復興特別所得税を1%引き下げ、合計の税率を2.1%に保つとしました。たばこ税については、1本あたり3円相当の増税とし、段階的に引き上げる予定です。
この3税の増税のタイミングは「24年以降の適切な時期」との表現に留められており、また、税目ごとの税収規模は示されませんでした。
以上の通り、防衛費財源の確保に向けた増税は2023年には実施されないですが、増税の議論が国民に生活防衛の意識を生じさせ消費の減退等を招くことが懸念されます。
1-4 企業の景況感
帝国データバンク社は同社サイトで、「2023年の景気見通しに対する企業の意識調査」の結果として、「2023年の景気、悪化を見込む企業が25.3%へ倍増」と発表しています。その結果内容は以下の通りです。
・2023年の景気見通しとして、「悪化」と見込む企業25.3%(約4社に1社が占める)
2023年の景気見通しを質問した結果、「回復」局面を予想する企業は2022年の景気見通しから10.8ポイント減の11.5%となりました。また、「踊り場」局面は39.1%と2022年見通し(40.9%)より若干減少しています。「悪化」局面を予想する企業は、同12.7ポイント増の25.3%という結果です。
実際、各企業からは、「電気代、燃料代の高騰が続くなら、製品価格の大幅値上げは回避できない。しかし、原価上昇分を価格に全部反映できないため、収益性は悪化する」「景気が好転する材料がなく、先行きは不透明な見通し。新型コロナ、ウクライナ危機、円安対策など、大きな社会不安の払拭による好転が期待されるが、それには相当な時間が必要だ」といった声も上がっています。
物価高騰、新型コロナ、ウクライナ危機や円安などの問題が、2023年においても企業の事業活動に悪影響を及ぼす可能性は低くないでしょう。
2 ライフスタイルや消費に関する価値観・ニーズの状況
現在の事業環境の中、ビジネスの対象となる消費者や企業等の価値観やニーズの状況を確認しましょう。
2-1 個人の消費やライフスタイルの変化
タイムカレント社は「消費・ライフスタイルに関する調査」を実施し、「SDGsへの注目や根強く続くコロナ禍で、個人の消費やライフタイルがどのように変化しているのか」を調査しました。その主な結果内容は以下の通りです。
①「2人に1人が、これまでの消費行動を変える意向。コロナ禍やSDGsブームを背景に、自らのライフスタイルを重視する傾向」
「商品やサービスなどの選び方を変えたり、変えたいと思ったか」という質問に対して、そう思ったと回答した人の割合は52.1%と、半数以上を占めました。
円安、物価高騰、エシカル消費の浸透、アフタコロナへの移行、など現在の日本の状況を背景に、消費者の「選び方」に変化の兆しが見え始めています。また、商品やサービスを変えたい理由としては、以下のような項目が上位となりました。
- 「ライフスタイルに適したものを考えるようになった」34.4%
- 「充実した毎日を過ごしたいから」31.1%
- 「自分の価値観・倫理観の変化に合わせて」28.8%
- 「より高い満足度を求めて」20.5%
- 「家計が苦しいから」16.7%
以上のように、「より良い商品・サービスへの乗り換えで、自分らしいライフスタイルに変えたいという傾向」が強まりつつあります。また、生活防衛の意識の高まりも見えてきました。
商品やサービスの選び方を変えた・変えたいと答えた人方に、新型コロナやSDGsが影響しているかの質問をした結果では、新型コロナに関しては「影響した」18.2%、「どちらかと言えば影響した」34.7%と計52.9%、SDGsに関しては11.5%と22.8%とで計34.3%が影響を受けていることが確認されています。
なお、SDGsの影響について年代別でみると、20代、30代は計4割を超え、若年層での影響が大きい点がわかりました。現在の学習指導要領では「持続可能な社会づくり」の内容が盛り込まれており、若者のSDGsに対する理解や重視する姿勢は他の年代に比べて高いと言えそうです。
②「選び方を変えたもの」に、「趣味」「投資」「友人との付き合い方」が上位に。一方で、自動車関連や教育系サービスは手つかずの状態に
「変えたい」と「変えた」と答えた人のそのジャンルとしては、「変えたい」と思ったものは「趣味・レジャー」が27.4%で最多でした。次いで「投資」25.7%、「友人との付き合い方」16.0%、「ファッション」14.8%、「光熱費」14.1%となっています。
実際に「変えた」ものは「投資」21.6%、「友人との付き合い方」18.8%、「趣味・レジャー」14.4%となりました。この結果には、政府による「貯蓄から投資」への政策推進や、新型コロナの影響(人との接し方に関する制限や心理的抵抗等)が影響したものと推察されます。
選び方を変えたいものと選び方を変えたもののWORSTについては、レンタカーなどの「レンタル系サービス」「シェアリングサービス」や「教育サービス」は割合が小さく手つかずの傾向が見られます。
一方、「自動車保険」「医療保険」「資産運用サービス」などの割合が比較的大きいです。手続や費用等の面で変更が容易なサービスなどは価値観の変化に伴って変更される可能性の高いことが垣間見えました。
③「今年の夏は記録的猛暑の予感!?それでもアクティブに楽しみたい。「内から外」への意識の高まりが表れた結果に
この2022年の夏に対する意識を尋ねた結果、各項目の「そう思う」と「どちらかと言えばそう思う」の合計は以下のようになっています。
- 「充実して過ごしたい」:79.5%
- 「賢く過ごしたい」:77.3%
- 「節約したい」:75.3%
- 「大人しく過ごしたい」:65.0%
- 「アクティブに楽しみたい」:51.3%
- 「新しいことをしたい」:47.8%
以上のように2022年の夏については、「充実して過ごしたい」や「アクティブに楽しみたい」などアフタコロナに向けての外向きの態度が現れました。その反面、物価高騰などの経済情勢を受けてか「賢く過ごしたい」「節約したい」「大人しく過ごしたい」という声も高まっています。
今後の状況によりどちらかの流れに傾くこともあるため、経営者としてはその点に注意して対応していかねばなりません。
④「エシカル」や「タイパ(タイムパフォーマンス)」を重視した商品選びが今のトレンド!エシカルは食品や生活雑貨選びで、タイパはエンタメ系コンテンツのセレクトで顕著に表れる結果に
今後どのようなものを消費者は選ぶのかについて、「環境」と「SDGs」を対象として調査された結果、37.0%が環境にやさしいものやSDGsを意識して選ぶという結果になりました。
ジャンルでは「食品」が最多の64.9%、次いで「生活雑貨」31.4%、「ファッション」25.9%と続いています。エシカル消費(人・社会・地域・環境に配慮した消費行動)への関心が高まるにつれて、最も身近で必要不可欠な食品や衣料などから、乗り換え消費が進んで行くと期待できるでしょう。
このように消費者の行動では、個人が自分の欲しいものを単に入手するという単純な行動以上に、社会貢献といった特定の価値観に基づいて取る行動の側面が強まってきているのです。
エンタメ系コンテンツの選び方・楽しみ方では、「高効率」を志向したモノ・コトを選ぶ姿が確認されました。例えば、「評判を見てからコンテンツを選ぶ」と答えた人が約4割と「失敗したくない」という意識が感じられる結果となっています。
また、4人に1人が「2倍速などで動画を見る」「ネタバレを見てからコンテンツを選ぶ」など、短い時間で高い成果を得たいという「タイパ」を意識した傾向が強まっていることが判明しました。ほかでは4人に1人が「サブスクサービスに加入する」など「持たない暮らし」への意識も強まりそうです。
高度な情報化社会の到来により、消費者等は大量の情報を高速で入手できるようになって、商品・サービスの選択の幅が広がり、その購入・利用が用意になりました。そうした中で、できるだけ時間効率の良い利用をしたいという意識が「タイパ」として現れ始めています。
限られた自分の持てる時間をできる限り楽しみたい、というニーズはさらに強まりそうです。また、ものを購入・所有して利用するのではなくサブスクリプション(一定期間の利用に関する権利の購入)の形態で、必ずしも所有を伴わない利用への関心も強まっています。
消費者行動は、従来の「認知⇒関心⇒欲求⇒記憶⇒行動」といったプロセスを一定の時間をかけて進む形態から、それら以外の様々な要素(共感や共有など)を伴うプロセスへ変わってきました。
加えて消費に対する価値観が変容しているため、一般的な消費者行動プロセスに照らしてビジネスを設計するのが困難になってきたのです。そのため取扱う商品・サービスに対する消費者等の現在の価値観や購買プロセスを踏まえて、ビジネスシステムを組み立てることが要求されています。
2-2 2023年に期待されるニーズ
ヒット予測などの調査結果から、2023年に期待される消費者等のニーズを紹介しましょう。
1)楽天の「ヒットワード2022&ヒット予測2023」
楽天市場では、楽天の各種サービスのデータに基づきヒットワード、ヒット予測ワードを独自に選出し紹介しています。その「2022年ヒットワード」は以下の通りです。
・脱自粛関連消費
新型コロナに伴う行動制限が緩和されたことで、楽天市場ではイベントや外出に関連した商品の需要に回復傾向が見られました。
・マイクロファッションアイテム
キャッシュレスの普及やスマホの利用のファッション化などにより、小さなバッグ、ポーチの人気が急上昇し、スマホポーチの流通額は昨年の約4倍に増大しています。
・ホカンス
行動制限のない夏休みとなったことから、国内旅行が大幅に回復しました。特に宿の滞在・サービスを満喫できる宿泊プラン、部屋が人気のホテルステイ、プライベート空間でバカンス気分や非日常感を楽しむ旅行、などが注目されています。
・バーチャル推し活
アイドルなどのライブイベントに制限が残る中、デジタルトレカなどのNFT(代替不可能なデジタルデータ)を購入して応援する新しい「推し活(イチオシの人やキャラクターを応援する活動)」がトレンドになりました。
・レシ活
物価高騰の中でレシートの画像をスマートフォンから送付し、ポイントを得る「レシ活」が人気となっています。買物で「楽天ポイント」を獲得できる「Rakuten Pasha」では、ユーザーから送られたレシート件数が約1.6倍に増加しました。
2023年においても上記項目での需要が継続する可能性はありますが、楽天市場では「2023年ヒット予測」として、以下の項目を挙げています。
・サステナブルツーリズム
楽天トラベルが旅行者を対象に実施した意識調査では、7割以上が旅行先や宿泊施設においてサステナビリティに関する何らかの問題意識を感じているという回答を得ているのです。
日本でもサステナビリティへの認識が進んでおり、近年ではサステナビリティに対応した宿泊施設の新規開業も少なくありません。また、新型コロナの影響で地域経済の持続可能性が課題となる中、寄付と旅行を通じて地域を応援できる「ふるさと納税の返礼品」(「楽天トラベルクーポン」等)が注目されるようになりました。
新型コロナの感染拡大の状況にもよりますが、旅行需要の増大につれサステナブルツーリズムの需要が増す可能性はあるでしょう。
・デジタルヘルスケア
2023年1月から電子処方箋の運用が開始されることで、病院や薬局が患者の過去の処方・調剤データを閲覧できるため、患者の処方歴を把握した適切な処方等が進むものと期待されています。
コロナ禍の中、遠隔での診断などが必要な場合に何時でも検査や治療を受けられるシステムや、迅速な医療データの収集・解析・利用の重要性が認識されはじめました。デジタル技術を活用した新しい医療・ヘルスケアサービスの需要の増大が期待されているのです。
・縦読みデジタルコミック
縦読みデジタルコミックは、スマートフォン画面全体を使用したインパクトのある描写、多様な色使い、音響へのエフェクトなど、様々な演出効果があり注目されています。
また、縦読みデジタルコミックは、縦に並べられたコマ画面をスクロールして読むことができる、世界共通の読みやすいフォーマットであるため、国内外で人気となっているのです。
デジタル技術の活用が、漫画等のコンテンツにおいて潜在しているニーズを掘り起こしビジネスを拡大させます。
・安近短な海外旅行
各国の水際対策の緩和により、海外旅行に行きやすい状況となりました。例えば、楽天トラベルでの海外ホテルと海外ツアーの1日当たりの平均の検索数は、約3倍以上に増加しているのです。
行き先の傾向としては、日本人旅行者も安心して海外を楽しめるハワイや、短い時間と距離で移動が楽で、食やエンタメ文化などが日本人にも親しみやすい韓国・タイなどが人気となっています。
2023年も安心・安全で、比較的近い場所でかつ短時間で行きやすい「安近短」な旅行を楽しむ方がさらに増えるでしょう。
2)博報堂生活総合研究所の「2023年生活気分」
博報堂生活総合研究所は、翌年の景況感などに関する調査を行い、その結果を「2023年生活気分」として公表しました。その調査結果のポイントは以下の通りです。
●2023年の景況感
2022年の景気は「悪かった」が6割超で多数となっていますが、来年の景気予想でも「悪くなる」が過去最多となりました。
なお、来年の景気予想の理由では、「悪くなる」と思う理由は「物価上昇の継続・加速」(41.5%)、「良くなる」と思う理由は「コロナ禍の収束・沈静化」(28.7%)が各々トップとなっています。
●2023年世の中の変化予想
今年の変化は「多かった」が4割で、2023年が「多くなる」との予想も4割程度(前年よりやや減少)となりました。
来年「多くなる」と「予想する変化」の内容は、「国際情勢の変化」(14.2%)や「自粛や規制の緩和」(10.1%)などが占め、今年生じたポジティブ・ネガティブな変化の各々が、さらなる変化を遂げるとの予想が多くなっています。
こうした変化の認識が、個人等の消費行動の変容に繋がる可能性も高いでしょう。
●2023年にお金をかけたいこと
1位が「旅行」、2位は「貯金」、3位が「外食」続き、上位2項目では「今年お金をかけた」を上回っています。特に、「旅行」では来年と今年の差が+11.2 ptと大きいです。
他にも、「レジャー」(+5.3pt)、「老後の暮らしの準備」(+3.9pt)、「株など投資」(+2.4pt)などは今年より来年の意向が大きくなっています。
他方、4位の「ふだんの食事」は今年29.9%に対し、来年の意向は18.9%と11.0ptと減少しました。コロナ禍の規制緩和により外向き消費への意欲は旺盛であるものの、物価高騰の影響などで節約/貯蓄への意識も高まっている点が窺えます。
●2023年に始めたい/やめたいこと
始めたいことは「運動・体操・筋トレ」、やめたいことは「無理しての人付き合い」が各々トップに挙げられました。
「始めたいこと」については、「運動・体操・筋トレ」(28.1%)が1位で、「投資・資産運用」(27.0%)、「副業」と「貯蓄」の両者がともに24.3%と続きます。一方、「やめたいこと」では、「無理しての人付き合い」(30.2%)が1位で、「無駄遣い・衝動買い」(30.1%)、「食べ過ぎ・飲み過ぎ」(27.5%)が上位となりました。
来年においては、外出抑制等に対する体力の向上、物価高騰での無理や無駄の抑制、収入や蓄えの増大、などが重視されており、現状に向き合う生活者の意識が垣間見えます。
2-3 法改正等による生活者等への影響
2023年では以下のような法規制の新設・改正が生活者や事業者に影響する可能性が高いです。
1)育児・介護休業法の改正
男女とも仕事と育児の両立が可能となるように、産後パパ育休制度(出生時育児休業制度)の創設や雇用環境整備、個別周知・意向確認の措置の義務化などの改正があり、2022年4月1日から3段階で施行されています。
2023年4月1日からは、従業員1000人超の企業は育休取得率の公表が義務化される予定です。この施行により男性の育休が進み、夫婦が互いに仕事と家事・育児を主体的に両立できると期待されています。
労働者では育休の利用により家庭にいる時間が増えるライフスタイルが強化され、消費するモノ・サービスも変化するはずです。事業者にとっては、さらに人手不足となるため、一時的な人材確保の手間と費用が生じるというリスクに直面する可能性が生じます。
こうした状況を事業機会として捉え、新たなビジネスを生み出す取組が今後の起業等では重要になります。
2)2010年の労働基準法の改正の施行
2023年4月から、中小企業でも月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率が25%から50%へ引き上げられます。
2010年の労働基準法の改正で、大企業は50%となりましたが、中小企業は猶予措置として25%に留められていました。その後の2019年4月の「働き方改革関連法」で、中小企業の猶予措置の終了が決定され、上記の予定で引き上げが実施されることとなっていたのです。
割増賃金率が中小企業で適用されれば、残業や深夜労働などが多い事業者においては相当なコスト増になりかねません。一方、労働者にとっては収入が大幅に増えることが期待されます。
そのため企業としては、働き方改革をさらに進めてより効率的な業務を確立する努力が必要です。労働者も企業のそうした取組で残業等が減少すれば、プライベートな時間(自分や家族のための時間等)をより多く確保でき、ワークライフバランスの取れた生活が実現しやすくなるでしょう。
3 2023年に重要となるビジネスのポイントと事例
現在の経済状況や消費者等のニーズの変化などを踏まえ、2023年での起業・会社設立や事業転換などでビジネス上の重要となるポイントや取組を紹介しましょう。
3-1 コロナ禍でのビジネス
コロナ禍でのビジネスとして、重視しなければならないリベンジ消費とニューノーマルへの対応について説明します。
1)リベンジ消費とニューノーマルへの対応
2022年ではコロナに対する行動制限が緩和されたことから食事、レジャーや旅行などで外出する人が増加し、これまで抑制されてきた消費がある程度回復しました。この傾向は「リベンジ消費」と呼ばれ、2023年において更なる回復が期待されています。
しかし、人々の消費意欲が一気に爆発するような状況は今のところ見受けられません。このリベンジ消費について、株式会社野村総合研究所は2022年1月11日に同社サイトで、以下のような内容を公表しました。
・コロナ禍が完全収束した際の消費意向に関して、「リベンジ消費」が起こる可能性は、コロナ感染者数が落ち着いている2021年12月時点でも限定的(同年7月の調査と同様の結果)。ただし「国内旅行」については、GO TOキャンペーンの再開によって、活性化される期待は持てる(実際は再開なし)
⇒コロナ感染者の増加が落ち着いても、それが消費を急回復させるわけではないことがわかりました。また、GO TOキャンペーンの再開は見送られ、需要の回復を促すことができなかったのです。今後はこうした状況を見据えた経営が求められます。
・「コロナ禍以前の生活状態に完全に戻る」と考える人は19%で、7月調査の25%より減少。一方、「ある程度は戻るが、完全には戻らない」との回答が7月の59%から12月には68%へと増大。その理由として、「オンライン化・デジタル化が浸透した今の生活様式に慣れた」といった意見が7月調査の25%から36%に増加。コロナ禍で半ば強制的に生じた生活面のデジタル化等の変化が浸透し、生活者の意識が変わったと捉えられる
⇒コロナ禍でリモートワークが普及し、デジタル技術を活用した非接触な生活様式が浸透したため、人々の生活態度に変化が生じました。その結果、コロナ禍前のような消費スタイルに完全に戻ることが難しい状況です。
従って、アフタコロナでは以前のような消費を対象としたビジネスが厳しくなる恐れがあるため、それを踏まえたビジネス設計が求められます。
・「生活者1万人アンケート調査」の結果から、生活者は制限ある生活の中でも楽しみを見出す(=こだわり志向)傾向を強めており、「プレミアム消費スタイル」が伸びている
⇒この状況に対して、同研究所は「企業は安易にリベンジ消費を期待せず、デジタル化が進んだ生活者のニーズをきちんと捉え、コロナ禍前とは異なる「ニューノーマル(新常態)消費」に向けた対応を進める必要がある」と指摘しているのです。
2)リベンジ消費やニューノーマルに対応するビジネス例
同社は、「塚田牧場」(炭火焼き鳥)などの飲食店の運営のほか、養鶏場および牧場の経営からそれらを含む食品の加工、流通、輸出入および販売を行う企業です。そのため新型コロナの影響を大きく受けた業種の1社と言えます。
同社の業績を見ると、2021期(3月)の営業利益と当期純利益は赤字、2022期も営業利益は赤字です。こうした状況に至り、同社は自社を取り巻く環境を次のように分析しています。
「リモートワークの定着、会社呑み会の減少、価格帯の二極化、デリバリー・お取り寄せなどによる内食・中食市場の拡大、購買行動のスマートフォンシフト、それに伴うカテゴリーを越えた購買選択行動、様々なツールやサービスの出現によるデジタル化の進展、更に多様化する集客手段など、これまでの外食業界における勝ちパターンを大きく変えないと、もっというと食産業全体を見据えた新たな姿にならないと、生き残っていけない」
こうした考えから同社は、「ニューノーマルの事業環境において、居酒屋市場が完全回復しない場合でも耐えられる事業ポートフォリオへの転換」を目指し、以下のような点を推進しているのです。
【外食⇒中食へのシフト】
自社集客・自社配送によるデリバリー事業の拡大
【居酒屋⇒専門店へのシフト】
居酒屋から専門店への業態変更加速(焼き鳥店、寿司店等の専門店の出店)
【既存店売上最大化】
既存店舗の売上最大化に向けたメニュー・サービス改善、PR認知拡大など(客単価のUP、少人数客対応)
【変動費率(変動費÷売上高×100%)の抑制】
店舗オペレーション改善、人件費のコントロールの徹底、店舗省力化などを進め、デジタルを活用した生産性向上(「モバイルオーダー」や「AI電話予約」の推進等)
こうした取組の結果、店舗によっては売上が1.3倍に増加し、人件費率が9ポイント減少するという成果が得られています。
3-2 サブスクリプション消費
サブスクリプションによる商品・サービスを求めるニーズも増えていく可能性が高いため対応が必要です。
1)サブスクリプション消費への対応
サブスクリプション(以下「サブスク」)とは新聞などの「定期購入」の利用形態のことですが、最近では音楽・動画の配信サービスやソフトウェアの月額利用などのような「一定期間内の定額利用」として提供されるケースが多くなっています。
特に今は、「契約期間内で、いつでも好きな時に、好きなだけ自由に利用できる」というサブスクを好む消費者が増加しているのです。デジタルコンテンツのほか、自動車・タイヤ、家電、家具、剃刀、化粧品、衣類など様々なものがサブスクとして提供され始めています。
サブスクに関する消費者のメリットは、使えば使うほど割安感が増すというお得な点、様々な商品・サービスを試せる点、利用する時間・場所等の自由度の高さ、初期費用が主に不要な点、などが挙げられるでしょう。
コロナ禍でデジタルデバイスを使う生活に慣れ、ECの利用が進みネット経由でサブスクを利用することに抵抗を感じる消費者は少なくなりました。また、ニューノーマル時代において、限られた自分の時間をできる限り楽しみたいというタイパ意識が消費者で高まっています。
企業にとってもサブスクは、顧客を長期的に囲い込み収益の増大に繋がる手段となり得るため、また、新規顧客の開発コストの低減にも有効であるため、サブスクを事業に取入れることに大きなメリットがあります。
2)サブスクのビジネス例
サブスクの代表例として、動画配信定額サービスでは「Amazonプライムビデオ」「Netflix」「Hulu」「YouTube Premium」、音楽配信では「Apple Music」「Spotify」などが挙げられるでしょう。動画・音楽だけではなく多様な業種でサブスクが導入され始めました。
●株式会社パンフォーユー
同社は地域のパン屋の手作りパンを、冷凍で届けするサービスや、パンを販売したい事業者とパン屋をつなぐプラットフォームの運営などを行っている企業です。
同社は、「全国どこかのパン屋さんからお店自慢のパンが届く定期便」をキャッチフレーズとした「パンスク」というサブスクを提供しています。まだ、訪れたことのない土地の人気店などのパンが、2週間に1回、1カ月に1回、2カ月に1回の定期便(選択で)で送られてくるのです。
遠方への外出や旅行などが容易でない現代において、こうしたこだわりのある食品を定期的に購入できる仕組みは今後も有望でしょう。
●株式会社メニコン
同社はコンタクトレンズ・ケア用品事業を営む企業です。同社は、月々の定額制で、コンタクトレンズを安心して利用できるサブスクとして、「メルスプラン」を提供しています。
このサブスクは1,980円(税込み)より、同社の豊富なコンタクトレンズラインナップから、ユーザーのライフスタイルに合ったコンタクトを、眼科医の処方のもとで提供されるサービスです。
サービスのタイプとしては、「使い捨て・定期交換タイプ」と「長期使用タイプ」に大別され、前者では「1日使い捨てタイプ」「2週間交換タイプ」「1カ月交換タイプ」「3カ月交換タイプ」が用意されています。
コンタクトレンズは目に直接つけるデリケートな製品であるため、メルスプランでは以下のようなサービスが提供されています。
- ・コンタクトに違和感を覚えたら、新しいコンタクトと交換が可能で、追加費用は不要
- ・破損した場合、無料で新品レンズと交換が可能
- ・紛失の際、新品レンズが追加費用なしで入手可能
- ・コンタクトレンズが合わなくなってきた時など度数・種類変更もOK
同社のサブスクサービスは、コンタクトレンズに対するユーザーの多様なニーズに応えるものであり、顧客の継続的な獲得および収益の向上に役立つでしょう。
3-3 旅行・レジャー等
コロナの感染状況に左右される旅行・レジャー等のビジネスのポイントを説明します。
1)旅行・レジャー等に対する現在のニーズ
旅行・レジャーに対する現在の消費者ニーズでは、「ホカンス」「安近短」や「サステナブルツーリズム」などが有望です。
2022年の夏休みや大型連休では行動制限がなかったため、旅行等の需要は増加しましたが、GO TOキャンペーンの再開にはいたらなかったため、本格回復には至っていません。
しかし、ウイズコロナが続く状況の中でも旅行等を自分なりに楽しもうとする消費者の意識が強まってきており、「ホカンス」「安近短」や「サステナブルツーリズム(持続可能な観光)」などが注目されるようになりました。
こだわりのある旅行、プチ豪華な宿泊プラン、安心安全・お手軽・低コストの海外旅行、地域社会等に配慮した旅行、などを希望する消費者が増えています。
旅行・観光関連の事業者としては、こうした消費者の旅行等に対するニーズの変化、価値観の変容を認識してビジネスを組み直す必要があります。コロナ禍前のマスツーリズムに基づいた旅行サービスでは現在の消費者ニーズを満足させにくい状況であることを認識しなければなりません。
2)ビジネス例
コロナ感染の収束が見込めるまでは「安近短」を中心とした旅行等が主流になると考えられます。ただし、収束の状況や「Go To キャンペーン」の再開に目途が立てば、次第に、高い、遠い、長いの「高遠長」の旅行等への需要増が期待できるため、関係業者としてはその備えが必要です。
●株式会社エイチ・アイ・エス
同社は旅行事業、ホテル事業、テーマパーク事業などを展開しており、主力の旅行事業では、現在、「安近短」を中心としたプランを強化しています。
「安近短で人気のアジアへ」や、「安い、近い、短期間でもOKと3拍子揃ったアジア」を合言葉に、手軽にビジネスクラスを体験する旅行プランなどを同社は勧めています。
エコノミーとは異なる豪華な機内食、ゆったりとしたラウンジ、などビジネスクラスのおもてなしを満喫できるプランが用意されているのです。旅費はお手頃設定ですが、滞在先のホテルをランクアップしたり、旅先でプチ豪華なアクティビティを楽しんだりと、非日常を堪能できるご褒美旅にグレードアップできます。
週末を利用できる3日間コースから、たっぷり充実の5日間以上のコースまで用意されており、ユーザーのスケジュールに合わせた日程を組むことも可能です。
コロナ禍の状況にある消費者ニーズの変化に対応するための旅行プランを設定し、回復しつつある旅行需要を捉えようと同社は取り組んでいます。
3-4 エシカル消費
増大しつつあるエシカル消費への対応が重要です。
1)エシカル消費への対応
エシカル消費とは「倫理的消費」のことで、消費者基本計画では「地域の活性化や雇用なども含む、人や社会、環境に配慮した消費行動」と示されています。
具体的には、各消費者が社会的課題の解決を考慮したり、そうした解決に取り組む事業者を応援したりするという消費活動のことです。持続可能な開発目標(SDGs)が国連で採択されて以降、サステナビリティに対する意識が国全体で強まってきました。
学習指導要領では、サステナビリティ重視の考えが盛り込まれているため、学生を含む若者のその意識は高い傾向にあり、それが彼らの消費行動に反映されつつあるのです。例えば、以下のような行動にそれが現れています。
- ・ペットボトルを購入せずマイボトルを持ち歩く
- ・被災した地域の特産物を積極的に購入する
- ・フェアトレード(発展途上国等に不当に不利とならない取引)商品を選ぶ
- ・環境に優しい材料を使った商品を選択する
- ・自然環境に配慮した事業活動を行う企業の商品・サービスを支持する
ただし、全ての消費行動に対してエシカル消費が結び付いているわけではなく、価格・性能・品質などにおいて代替されにくいケースも多いです。特に物価高騰が続く現状で消費者の生活は厳しくなっているため、サステナビリティに貢献する商品等であっても価格が高い場合は支持が得られにくくなります。
従って、エシカル消費を捉えていくには、サステナビリティへの貢献度を高める商品内容にするほか、ユーザーが求める価格や性能、品質等の面で満足される内容にすることが不可欠です。単に社会に役立つ商品等であることだけでは消費者等には受け入れられません。
2)ビジネス例
エシカル消費に対応するビジネスは様々ですが、身近な分野ではファッション(衣料等)や食品などの製品販売のほか、企業における環境に配慮した事業活動などが挙げられるでしょう。
●サントリーホールディングス株式会社
サントリーグループは、食品類や酒類を中心した製品の製造販売を手掛ける企業群です。同グループでは、持続可能な社会の実現に向けて、水、CO2削減、原料、容器・包装、健康、人権などをサステナビリティ経営の重要テーマとして掲げ、その実現に取り組んでいます。
- ・水では節水・再利用・浄化、水資源保全への対応
- ・CO2削減では脱炭素社会の実現をめざした省エネ技術の積極導入や再生可能エネルギーの活用等
- ・原料ではサステナブル調達の実行
- ・容器・包装材では商品ライフサイクル全体での環境配慮と循環経済の実現
- ・健康では商品を通じた心身ともに健やかで喜びに満ちた生活の提供(アルコール関連問題への取組等)
- ・人権では人間性の尊重、ハラスメント等の防止、人種・宗教・性別・国籍・障がい等の多様性の認識、などの推進
また、同グループは、活用されていない酒粕やカカオの殻などの素材を使用してクラフトジンの生産を行うスタートアップ企業のエシカル・スピリッツ社に出資しました(2022年)。同グループは自社の活動だけでなくスタートアップ企業など他社と連携した推進も図ろうとしています。
同社は発展途上国でアパレル製品および雑貨の企画・生産・品質指導を行い、それらの商品を先進国等で販売している企業です。
同社は「途上国から世界に通用するブランドをつくる」という理念を掲げ、個性的な素材、誇りを有する職人の技術、多様性あふれる固有の文化、などを商品(衣類、革製品、宝石等)へと、素材開発から納品までを一貫して行うモノづくりに取り組んでいます。
同社は発展途上国などに安心安全で働ける職場を提供し、地域の素材などを利用した製品の生産に取り組んでいるのです。その生産では、現地に伝わる伝統技術なども取り入れ、価格以上の価値の高さを引き出しています。素材のほか生産方式も各々の地域の文化や生活様式に合わせた工夫が採用されているのです。
3-5 コロナ禍と物価高騰
コロナ禍と物価高騰の両方の影響を受け、厳しい経営を強いられる企業は少なくありません。2023年もこれらの状況が続けば、これ以前のビジネスモデルに頼る企業の経営は厳しくなるでしょう。
国では企業に対して、こうした状況を打破するための施策として「事業再構築補助金(緊急対策枠)」などを交付しています。
この施策は、「新型コロナの影響を受けつつ、加えてウクライナ情勢の緊迫化等による原油価格・物価高騰等により業況が厳しい中小企業等が行う、新型コロナをはじめとする感染症の流行など、ポストコロナ・ウィズコロナ時代の経済社会の変化に対応した、危機に強い事業への事業再構築の取組」に対する支援です。
具体的には、中小企業等が新分野展開や業態転換などの事業再構築を通じて、コロナ前のビジネスモデルからの転換を実施する場合にこの補助金が交付されます。つまり、この施策は上記の困難な状況に耐えられる、新ビジネスモデルの推進を図ろうとしているのです。
これから起業・会社設立して事業を展開する場合でも、この新たなビジネスモデルの構築の視点が求められます。これまで確認してきた消費者等のニーズの変化に対応するとともに、物価高騰でも顧客の支持が得られるモデルの実現が必要です。
2)ビジネス例
コロナ禍と物価高騰への対応方法は様々ですが、事業再構築補助金で求めているような新たなビジネスモデルの推進は有効0となるため、その参考例を示しましょう。
●製造業の例
- ・既存のビジネスの状況:
航空機部品を製造していたが、コロナの影響で需要が減少し、加えて原材料やエネルギーのコストの値上がりで厳しい経営を強いられている - ・新モデルの推進:
既存事業を縮小することとし、当該事業の不要な設備等の廃棄等を進める一方、新たな事業としてロボット関連部品や医療機器部品の製造に取り組む
なお、事業圧縮に伴う設備撤去の費用、新規事業に従事する従業員への教育訓練等の費用などで事業再構築補助金を利用することが可能です。
●飲食業の例
- ・既存のビジネスの状況:
創作料理のレストランを運営していたが、コロナの影響でお客が減り、売上が減少するとともに、原材料等の高騰で利益がさらに減少し赤字に陥る - ・新モデルの推進
少なくともコロナが収束するまでの間、店舗での営業を停止し、オンライン専用で注文を受けるサービスを導入する。持ち帰りや宅配の需要を取り込むビジネスモデルに転換していく。
なお、持ち帰りや宅配等に対応するための建物の改修費用、同サービスにかかる機器等の導入費や広告宣伝費用などが補助金の対象になり得ます。
パンデミックや物価高騰などの影響は単に既存ビジネスを圧迫する要因となるだけでなく、ターゲットの生活や消費等における価値観や意識を変容させます。そのため、そうしたニーズの変化に対応し乗り切るためのビジネスモデルのチェンジも必要です。
4 2023年に起業・会社設立・事業転換を進める際の留意点
波乱に満ちそうな2023年に起業・会社設立・事業転換する場合の、注意しておきたい重要点を示しておきましょう。
4-1 起業から成長へと導くための経営
まず、起業・会社設立から事業展開を進めて行く場合の基本プロセスを理解しておかねばなりません。例えば、以下のような点です。
1)起業や会社設立の目的の明確化
起業等に先立ち、自身が何のために事業を興すのか、どんな経営を行うのか、などの経営に関する理念を第一に明確にする必要があります。自身の事業に対する思いが、今後到来し得る困難な状況などを突破する力になるほか、事業の方向を正しく捉えぶれずに進めることが可能となるのです。
また、会社等の組織の設立では、社会的信用や取引面などでのメリット、設立費用や手続の手間などのデメリットも発生するため、それらを考慮して組織形態を決定する必要があります。加えて株式会社など、どの形態を選ぶかについてその特徴や自身の状況なども踏まえて決定する必要があり、その点の理解も欠かせません。
2)環境分析
ビジネスの成功はその時々の環境適応に左右されることから、自社(自身)を取り巻く環境を的確に分析し把握することが必要です。コロナや物価高騰などの外部環境のほか、自社の人・モノ・金・情報等の経営資源という内部環境を分析し、その結果をビジネスモデルに反映していくことが求められます。
3)ビジネス構想(ビジネスモデルの確立へ)
ビジネスの設計は、ビジネスのもととなるアイデアを発想し、それを経営資源で実現できるかを、構想するところから始まります。
例えば、「世の中は、今こんな状況だから○○のニーズが高まっており、それを自分の△△な強みを活かして商品化・サービス化すればビジネスになる!」といった発想です。
そして、そのアイデアをもとに、「誰の、どのようなニーズを、どんな商品・サービスで、どんな風に捉えていくか」をまとめると「ビジネスモデル」というビジネスの仕組みの構想ができます。
4)ビジネスシステムの確立
ビジネスシステムの確立とは、ビジネスモデルを事業として推進していくための具体的な業務を考案し整備することです。例えば、製造業では、製品の開発・設計、材料等の調達・購買、製品の製造・販売、顧客等への納入・アフターサービス、などの必要な業務プロセスを整えていく必要があります。
現代においてはネットを中心とした、顧客情報の収集や顧客との関係管理といった業務も欠かせません。こうした業務プロセスをビジネスモデルに合わせて整備しなければなりません。
5)必要資源の確保
ビジネスシステムの運用には、それを動かす適切な経営資源が必要です。「4)」における整備とはこの経営資源の確保と配置のことです。起業前からのスケジュールに合わせて必要となる資源を確保していきましょう。
具体的には、ビジネスシステムの設計を進めるのと並行して、その明らかになった資源を予定に合わせて入手していきます。新設の企業では十分な経営資源を確保するのが困難となることも多いため、早めにその取組を進めることが肝要です。
6)開業に伴う法的手続への対応
業種によっては開業に必要な許認可(届出、許可、認可、登録、免許)を取得する必要もあるため、その点を事前に確認して準備しましょう。許認可の手間や取得に要する時間などは業種等によって異なるため、早めに確認することが重要です。
なお、許認可の種類や業種などにより、資格や法人登記が必要となるケースもあるため、その点も把握しておきましょう。
4-2 2023年での経営上の注意点
2023年の状況を踏まえ、これから起業・会社設立する際に特に注意しておきたい点を説明します。
1)影響の大きい環境要因の把握と対応
まず、コロナの感染状況と物価高騰の変化に対応したビジネス展開が必要です。現状においてはオミクロン株感染の拡大に加えて行動制限がない状況となっているため、第8波の勢いが増しています。コロナ感染の収束が見込めない状況が続けば、需要の回復は一進一退を繰り返す可能性も高まります。
従って、しばらくはウイズコロナに対応したモデルを強化継続していく必要があるでしょう。もし収束の可能性が強まった場合には需要の急増に備える経営が求められます。
例えば、後者の場合、店内での商品・サービスの提供を拡大する、接触を伴う営業・サービスを強化する、リベンジ消費に向けた商品ラインアップを増加する、などの対応が必要です。
また、物価高騰の状況が長引けば消費者の購買意欲と企業の投資意欲が減退しかねません。その結果、景気後退が現実となる可能性が高いです。
その場合、消費者は日常的に利用する商品・サービスの量や頻度を抑制する一方、非日常的なこと、こだわりのあることには、支出を集中させるという傾向を強める可能性があるため、それに対応できるビジネスの組立が求められます。
なお、ウクライナ問題や米国のインフレ問題などで改善が見られれば、インフレ状況が変化する可能性があるため、その兆しが見え始めた場合には需要の拡大に備える経営への転換も必要です。
2)消費者や企業の行動変容
時とともに生活者の価値観は変わり、それが消費行動の変化に繋がって結果として企業の行動も変わらざるを得ません。現代においては、情報通信技術の発展、コロナ禍、物価高騰、持続可能な社会の実現、などの影響を受け、消費者等の消費行動は変化しています。
どのような価値観とニーズを有するかは対象者によって異なるため、上記のような環境要因を踏まえて、ターゲットの状況を正確に掴むことが欠かせません。
例えば、ターゲットが商品等を購入する場合、何処で、どのような手段で情報を集め購買を決定するのか、店とインターネットのどちらで購入するのか、企業からのアプローチは店舗とネットのどちらを主体にしたらよいのか、誰の影響を受けて購入を決定するのか、なども分析して対応しなければなりません。
現代の消費者等の価値観は、コロナ禍以前のものと大きく異なることもあるため、その点を踏まえたビジネスを展開しないと2023年以降の起業等で成功するのは難しくなるでしょう。
3)政府の政策・法規制の動き
防衛増税の議論が2023年に本格化する予定ですが、与党議員の中には消費増税を口にする者が現れ出しました。2023年に防衛増税が実施される可能性はないですが、増税の議論が表面化し、実現に向けて動き出せば消費者は生活防衛の消費スタイルを取りかねません。
その結果、コロナ禍からの需要の回復にも影響がおよび、加えて物価高騰が持続すれば、本格的に景気後退へ陥る可能性があります。そのため、企業は消費者等のニーズの優先順位に合わせたビジネスがより必要となるでしょう。
生活防衛にかかる商品・サービスでは、価格をある程度維持しつつ、お得感のある内容・構成にすることなどが求められます。趣味やこだわりのあるモノ・コトなどでは、利用での満足度や充実感等をより高める工夫も必要です。
そのため各ターゲットの希望に沿うパーソナライズした対応を駆使したビジネスの検討なども求められるでしょう。
5 まとめ
昨年に続き2023年もコロナ禍と物価高騰の状況が続く可能性が高く、増税の影を気にする経済状況となりそうなため、企業は難しい経営に迫られる可能性が高いです。
コロナ感染と物価高騰の状況により消費者等の価値観やニーズは変化するため、それらの変化を注視して対応する努力を怠ることができません。これまで確認してきたニーズの変化などを参考にその対応が可能な経営に取り組んでください。