混迷する時代の起業・会社設立のポイントを解説!新たな事業や業態でこそ成功するにはどうすればいい?

現在の企業を取り巻く環境はコロナ禍や物価高騰などの厳しい状況下にあり、また人々のライフスタイルや価値観にも大きな変化が見られるようになってきました。こうした中で起業・会社設立して成功するには、従来とは異なる新事業や新業態のビジネスに取り組むことが重要です。

そこで今回の記事では、コロナ禍で注目されるようになった新事業・新業態への転換(取組)について解説します。業態転換等の有効性を知りたい方、新業態等の開発の仕方やその成功のポイントを把握したい方、新業態等で会社設立していきたい方は参考にしてみてください。

1 市場環境と既存の事業・業態

市場環境と既存の事業・業態

新事業や新業態がビジネスで必要とされている理由について確認しましょう。

1-1 現在のビジネス環境

まず、倒産や開業などの状況から経営環境を概観します。

1)倒産・廃業の状況

(1)2022年の倒産・廃業

株式会社帝国データバンクは2023年1月16日に、「全国企業『休廃業・解散』動向調査(2022年)」を公表し、以下のような点を説明しました。

●調査の概要

・2022年の全国企業倒産は6376件発生し、3年ぶりに前年を上回る

コロナ禍で倒産件数は減少傾向にありましたが、物価高騰、過剰債務、人手不足となどの「負の影響」が強まったため、事業継続を断念する中小企業が増加した、と指摘されています。

政府等の活発な資金供給(ゼロゼロ融資等)やコロナ対応の補助金が、経営体力に乏しい中小企業の休廃業発生の抑制に役立ち、前年を下回る傾向が続きました。しかし、その支援の中で業績回復や経営基盤の強化などに取り組んだ企業は多くなく、負の影響から倒産が増加したのです。

・「黒字」休廃業、過去最低の54.3% 収益力低下の企業で「あきらめ」加速の可能性も

原材料価格の高騰などでダメージを受ける企業が多い中、先行きを見据えて体力のある健全企業が先行して事業をたたむ兆しが見られ始めた、と指摘されています(「サクマ式ドロップス」の佐久間製菓 等)。

コロナ禍や物価高騰などで収益や財務に悪影響が出る中、財務内容やキャッシュなどで経営余力を残している企業において、事業再建を含め将来を悲観し、自主的に会社を休業・廃業、或いは解散しようとする「あきらめ休廃業」の機運が高まりつつある、と分析しているのです。

現状の経営環境に対応できる経営が実施できないと、倒産か自主廃業に追い込まれる可能性が高まります。

●業種別 「建設・不動産の2業種で増加 5業種で減少も減少幅は縮小」

前年から減少した業種は、「製造業」(2734件)など5業種となっています。旅館・ホテルや非営利団体(NPO)などを含む「サービス業」(6342件)では、増加に転じた前年から一転して大幅な減少となったほか、前年からの減少幅は2016年以降で最大でした。

食品スーパーなど「小売業」(3419件)、「卸売業」(3143件)などでも大幅な減少でしたが、減少幅は前年から縮小しています。他方、「建設業」(6936件)「不動産業」(1802件)の2業種は前年から増加しました。建設業は2016年以降で初めて増加に転じ、不動産業は前年に続き2年連続で増加しました。

●旅行産業の「休廃業・解散率」、前年に続き全業種中で最高 高水準が続く

業種細分類では、前年比で最も増加したのは「化粧品卸売業」です。コロナ禍で外出自粛やリモートワークの定着で落ち込んだ「化粧品」需要は、復調途上にあるもののコロナ前の水準に回復せず、休廃業件数を押し上げました。

「スポーツ用品小売」、「新聞小売業」、飼料高に喘ぐ「畜産業」が続くなど、上位には流通業や農林水産関連産業での増加が目立っています。

休廃業・解散率では、最も高いのが旅行代理店です。「一般旅行業」など旅行産業の休廃業・解散率が高水準で推移しているほか、「パチンコホール」などサービス産業も高いです。

⇒上記の通り、コロナ禍の影響から回復傾向を見せる業種もありますが、ライフスタイルや消費・レジャー等にかかわる行動などに変化があり、業績がコロナ禍以前の水準に回復しないケースが多く見られます。

2)新設法人の開業の状況

株式会社東京商工リサーチの「2021年『全国新設法人動向』調査」の内容から開業の状況を確認しましょう。

●調査結果の概要

・2021年(1-12月)に新しく設立された法人は14万4,622社(前年比10.1%増、前年13万1,238社)で、2019年以来、2年ぶりに前年を上回る

2007年以降で初めて前年比の増加率が10%を超え、件数で過去最多を記録しました。

・産業別では、10産業すべて増加

増加率が最も高かったのは、農・林・漁・鉱業の17.4%(2,469社→2,900社)で、コロナ禍の三密回避や地方回帰の動きが新設法人の動向にも影響を与えた、と分析されています。

一方、増加率の最低は不動産業の2.6%(1万3,919社→1万4,281社)で、金融緩和や海外の投資マネー流入で都市部を中心とした不動産価格の高騰により、新規参入しにくい状況になった、との指摘です。

●新設法人は増加、倒産と休廃業・解散は減少

・2021年の新設法人は14万4,622社(前年比10.1%増)

新設法人の増加率が初めて10%を超えた一方、2021年の休廃業・解散は4万4,377社(同10.7%減)、倒産は6,030社(同22.4%減)と、ともに2ケタの減少率でした。コロナ禍の手厚い資金繰り支援で倒産が抑えられ、休廃業・解散も判断が先送りされるようになった一方で、新設法人の増加が突出した、と指摘されています。

●まとめ

2021年の全国の新設法人は、2007年以降で最多の14万4,622社(前年比10.1%増)、増加率も10%を超え、コロナ禍にもかかわらず活発な起業ニーズの存在が垣間見えます。

この理由として、コロナ禍が既存ビジネスモデルや商流に変革を迫り、新たなビジネスを促したのではないか、また、関係官庁・商工会議所・金融機関等による手厚い創業支援も新設法人の増加に繋がった、と分析されているのです。

一方で、パルプ・紙・紙加工品製造業は36.6%減(71社→45社)と大幅に減少しました。「コロナ禍で在宅勤務、リモートなどデジタル化が浸透し、ビジネス環境の激変で起業マインドが冷え込んだ」と指摘しています。

倒産件数全体では、2021年は6,030社(前年比22.4%減)、休廃業・解散は4万4,377社(同10.7%減)と大幅に減少しました。コロナ禍で実施されてきた政府の資金繰り支援策が、「廃業を思いとどまらせる効果があった」との分析です。

政府等の創業支援やコロナ禍での緊急避難的な支援が「代謝なき新設」を招いた側面もあり、今後の支援の課題になっている、と東京商工リサーチ社は指摘しています。

⇒ビジネスでは、既存の市場に新たな価値を提供するビジネスが登場して新旧のビジネスが適度に入れ替わり(新陳代謝)、それによって市場や社会が発展することが「是」とされています。

コロナ禍の状況に対する政府の支援でその代謝を歪めるケースが懸念され、今後の課題となり得るのです。経営環境の変化に対応できない企業を繰り返し支援する以上に、対応できるための支援の強化(事業再構築補助金制度 等)がより求められるようになるでしょう。

1-2 事業・業態の転換を促す支援策

中小企業等がコロナ禍の厳しい状況に耐えるために施行されたのが「事業再構築補助金」です。

事業再構築補助金は、「ポストコロナ・ウィズコロナの時代の経済社会の変化に対応するため、中小企業等の思い切った事業再構築を支援する」制度で、今も多くの中小企業等が利用しています。

この施策の「事業再構築」の内容は、「新分野展開」「事業転換」「業種転換」「業態転換」又は「事業再編」の5つで、その主な内容は以下の通りです。

・新分野展開:
⇒主たる業種又は主たる事業を変更することなく、新たな製品等(サービスを含む)を製造等し、新たな市場に進出すること
・事業転換:
⇒新たな製品等を製造等することにより、主たる業種を変更することなく、主たる事業を変更すること
・業種転換:
⇒新たな製品等を製造等することにより、主たる業種を変更すること
・業態転換:
⇒製品等の製造方法等(販売方法やサービスの提供方法 等)を相当程度変更すること
・事業再編:
⇒会社法上の組織再編行為等を補助事業開始後に行い、新たな事業形態のもとに、新分野展開、事業転換、業種転換又は業態転換のいずれかを行うこと

以上のように本施策は、事業者が従来のビジネスモデル(ビジネスの仕組)を相当程度に変更するような場合において補助金を提供する、という内容になっています。

コロナ禍で様々な制約を受けることとなり、また、その影響で人々の仕事や生活でのスタイルや消費動向等が大きく変わるようになったため、企業では従来のモデルが通用しなくなり、多くの企業で業績が悪化しました。

これらの企業の事業・業態転換等を促し、企業の成長を持続させるために、この事業再構築補助金制度が施行されたのです。

2 事業と業態等の内容と転換の意義

事業と業態等の内容と転換の意義

ここでは「事業」、「業種」や「業態」の内容や違いのほか、新事業・新業態への取組(転換)の考え方、メリット・デメリットを説明しましょう。

2-1 事業 業種 業態の意味

まず、事業、業種、業態の内容を確認します。

1)事業

一般的にビジネスで認識される「事業」とは、営利を目的として活動する企業・組織が、その商品の販売やサービスの提供などの経済活動を行うことです。簡単に表現すると、企業等が商品やサービスを提供することで対価を受け取る経済活動と言えるでしょう。

2)業種

業種とは、会社や個人が営む事業の種類のことです。日本標準産業分類の大分類では、「工業」「漁業」「製造業」「建設業」など、20種類があります。また、日本標準産業分類に基づき、様々な機関等による独自の分類もあり、その一つが下表の「証券コード協議会」の分類です。

業種
大分類 中分類
水産・農林業 水産・農林業
鉱業 鉱業
建設業 建設業
製造業 食料品
繊維製品
パルプ・紙
化学
医薬品
・・・・
その他製品
電気・ガス業 電気・ガス業
運輸・情報通信業 陸運業
海運業
空運業
倉庫・運輸関連業
情報・通信業
商業 卸売業
小売業
金融・保険業 銀行業
証券、商品先物取引業
保険業
その他金融業
不動産業 不動産業
サービス業 サービス業

3)事業と業種の違い

事業と業種の違いは、誰がどう分類するか、どう定義するか、によって決まります。例えば、先の事業再構築補助金制度においては、以下のように定義されているのです。

・業種
売上高構成比率の最も高い事業が属する、総務省が定める日本標準産業分類に基づく大分類の産業
・事業
売上高構成比率の最も高い事業が属する、総務省が定める日本標準産業分類に基づく中分類、小分類又は細分類の産業

どちらも営利を目的して行う経済活動ですが、上記の定義では日本標準産業分類に基づく大分類に該当するものが「業種」で、中分類、小分類又は細分類に該当するものが「事業」ということになります。

従って、事業再構築補助金制度において、「新事業を展開する、新業に進出する」といった場合、上記の中分類、小分類又は細分類の産業を対象として検討することになるのです。

3)業態

業態とは一般的に流通業、飲食業やサービス業などの営業形態を分類する尺度を指します。具体的には、小売店やサービス業などにおける販売の仕方やサービスの仕方などの形態です。

小売業の業態の分類としては、デパート(百貨店)、GMS(ゼネラル・マーチャンダイズ・ストア=イオン等)、スーパーマーケット、コンビニエンスストア、各種専門店、ディスカウント店、自動販売業、通信販売業・オンラインショップ、などが挙げられます。

同じ商品類等を扱う小売業でも、品揃え、販売価格(帯)、商圏、ターゲット、店舗規模、立地特性、アイテム(品目)数、販売方法(対面販売、セルフサービス 等)、付帯サービス(配送の有無、駐車場完備 等)、など様々な要素で営業形態を構築することが可能です。

そして、その形態の違いが競争優位の源泉になり得るため、業態が重視されるようになりました。

例えば、同じスーパーマーケットでも、市販品などを大量に仕入れ低コストで運営する「激安販売」の方法や、逆に高品質・高級品・希少品等を対象とし、高価格帯で販売する方法などがあり、これらの違いも「業態の違い」になります。

同じ小売業という業種で、同じスーパーマーケットという事業であっても営業形態、売り方等が異なれば、異なる業態はいくつも存在し得るのです。また、営業形態だけでなく、マネジメントや組織編成などの経営形態などによる違いもあります。

2-2 新事業・新業態への転換の考え方

ここでは「既存の事業と業態から新たなタイプへの転換」の内容を説明しましょう。

1)事業の変更や新事業に関する考え方

事業の変更・新事業の考え方として、「アンゾフの成長マトリクス」が有名です。

これは「製品(サービスも)」と「市場(顧客等)」を2つの軸としておき、各々を「既存」と「新規」に分けて、企業が成長を図るための方向性(成長戦略)を検討するために利用する、マトリックス図になります。

  製品
市場   既存 新規
既存 市場浸透戦略 新製品開発戦略
新規 新市場開拓戦略 多角化戦略

 

(1)市場浸透戦略(既存市場×既存製品)

この戦略は、自社がこれまで対象としてきた同じ市場(顧客)に、従来から投入していた製品(サービス)を提供して、売上や市場シェアの拡大を目指す方法になります。

市場浸透戦略では、広告宣伝などのプロモーション活動を強化して、既存市場の未開拓な顧客などを対象に製品の認知をアップさせたり、価格を下げて購入意欲を高めたりする、といったマーケティング対応が特に重要です。

(2)新製品開発戦略(既存市場×新規製品)

この戦略は、自社がこれまで対象としてきた同じ市場に対して、従来とは異なる新しい製品等を提供して、売上の増大を目指す方法になります。

この「新製品」とは、自社にとっての新製品等であり、「史上初」という新規性を有する必要はありません。ただし、既存市場でのニーズに合致して満足できること、他社の製品等と差別化できること、などが求められます。

多い例としては、従来の製品のタイプに新たな機能を付加して製品としての位置づけを変えるといったケースです。例えば、「携帯電話にカメラ機能をつける」「携帯電話にコンピュータ機能を付ける(スマホ化)」などの例がこの戦略に該当します。

新規製品といっても、既存の技術や設備などを活用して開発されるタイプが多いですが、技術や設備等などを踏めて新規製品を開発するケースもあります。

なお、この戦略は、これまで対象としてきた顧客やユーザーを相手とするため、彼らのニーズ等の情報が把握しやすく、自社のブランド力や販売チャネルなどを利用しやすいのが特徴です。

(3)新市場開拓戦略(新規市場×既存製品)

この戦略は、自社がこれまで対象としてこなかった新市場に対して、従来から投入していた製品等を提供して、新市場を開拓し売上の増大を目指す方法になります。

例えば、消費者用の洗剤を業務用(清掃業者向けや法人向け等)として販売するケースなどです。また、同じスマホでも少し仕様等を変更して、子供向けや高齢者向けとして販売するケースなどが該当します。

このように既存の製品等であっても売る相手が変わるため、ターゲットのニーズの把握が重要であり、それを満足するための対応・調整といった取組が求められます。

既存の製品等で新たなビジネス展開するため、開発面での難易度は下がりますが、新たな対象者とニーズの的確な探索と把握が欠かせません

(4)多角化戦略(新規市場×新規製品)

この戦略は、自社がこれまで未対応だった新市場に対して、新たなタイプの製品等を提供して、新市場を開拓し売上の増大を目指す方法になります。

つまり、多角化戦略は、新たな市場を対象として、そこでのニーズを把握し、それに合わせた新製品等を開発して市場を開拓するという手間・労力・コストが最もかかる難易度の高い方法になるのです。

そのためこの戦略は、成功すれば新市場から大きなリターンが得られますが、失敗すれば大きな経営リスクになり得る、ハイリスクハイリターンになるという傾向があります。

この多角化戦略にはいくつかのタイプがあり、各々は取組の容易さ・困難さや収益還元・リスクなどのレベルが異なるため、その内容を踏まえた選択が必要です。多角化戦略は主に以下の4つのタイプで説明されます。

●水平的多角化

この方法は、自社の生産技術等を活用して既存顧客等に類似したタイプの顧客へ、新しい製品を提供する多角化です。テレビメーカーがブルーレイレコーダーの製造販売に進出する、居酒屋チェーンが焼肉チェーンの事業に参入する、などが水平的多角化にあたります。

この多角化は既存の技術・設備・ノウハウ・流通経路などが活用できるため、多角化戦略のなか中でも比較的コストやリスクを抑えやすい戦略です。既存と新規の互いの市場・製品に好影響を及ぼすシナジー効果(相乗効果)も期待できます。

●垂直的多角化

垂直的多角化はエンドユーザー等が同じであるものの、既存製品等の流通チャネルの下流(川上から川下へ)や上流(川下から川上へ)に向けて行う多角化のことです。

例えば、「自動車メーカーにおける部品市場への進出」、「卸売業や小売業に衣服を卸していたアパレルメーカーでの直営店の展開」や「焼肉チェーン業による畜産業への進出」などが該当します。

既存の施設、技術やノウハウが必ずしも活用できるとは限らないため、水平的多角化よりもコストやリスクが高くなりやすいです。一方で、今まで外部から購入していた部材等をより安く・早く入手できたり安定確保しやすくなったりすることも可能で、収益の増大が期待されます。

●集中型多角化

この多角化は今までの技術・ノウハウなどの経営資源を活用して新製品等を開発し、新しい顧客に提供する戦略です。例えば、酒造業が医薬品事業に参入したり、食品加工業がバイオ関連事業を始めたりするケースが該当します。

この多角化では、特に既存事業からの販売面や生産面でのシナジーが得られ、既存事業における生産や販売面でのコストダウンが図りやすく、競争優位性の向上にも有効です。

集中型多角化は既存の経営資源の活用以上に、新たな市場でニーズを的確に把握しライバルに勝てるようにビジネスモデルを組み立てるというマーケティング能力や販売力などが重要になります。

●集成型多角化

集成型多角化とは、既存の顧客や製品との関連がほとんどない分野で行う多角化のことで、コングロマリット型多角化と呼ばれるタイプです。例えば、いくつもの複数事業を展開している総合商社などが該当します。ほかには小売業や通信業が金融業に参入するケースなどです。

この多角化は、これまで自社で行ってきた事業の顧客・市場や製品・サービスとほとんど接点のない事業領域で、その収益性や拡張性を含む将来性や魅力度を評価して進出する多角であるため、最もハイリスクハイリターンのタイプになります。

また、既存の経営資源・バリューチェーン等の活用が直接的に期待できないため、事業化して成果を出すまでの資金確保や先行投資が必要であり、資本に余裕のある企業でないと実施は容易ではありません。従って、基本的には大企業などが主に採用できる戦略と言えるでしょう。

そのため会社設立して間のない新会社が採用する戦略ではなく、既存事業が一定の成長を遂げて財政が安定してから検討するような戦略になります。その一方で既存事業の業況が悪化する場合、それと関係のない分野への進出はそのリスクを低減する、というリスク分散効果が期待できるのです。

2)業態の転換に関する考え方

業態の変更は、一般的に「業態転換」と呼ばれています。その業態転換の最も多い例としては、従来の製品・サービスの販売の仕方や提供の仕方を変えることが挙げられるでしょう。最もイメージしやすい例は、以下のような飲食・サービス業の業態転換です。

  • ・店内での飲食や接客が中心だった飲食店が、テイクアウト販売や宅配サービスの専門店に転換する
  • ・教室で英会話を教えていた英会話教室がインターネット経由のオンライン英会話教室に転換する
  • ・宿泊業者がその施設を旅行者向けから事業者向けのワーケーション施設(リモートワーク等が可能な休暇兼仕事向けの施設)に転換する
  • ・店舗でのアクセサリー販売を手掛けている小売業がインタネットショップ専門の販売店に転換する

そして、この業態転換を行う目的としては以下のような点が挙げられます。

(1)業績低迷からの脱出

既存事業の業績が低迷し、その状況が長期に続いているような場合、その打開策として業態転換は有効です。落ち込みが続く収益を回復させる手立てとして利用されるケースが多く見られます。

業績の悪化や低迷などには様々な理由や原因が存在しますが、既存のビジネスシステム(業務遂行の仕組)の不備、例えば、オペレーションの欠陥や不適切な管理などで発生している場合は、業態転換以前にそうした原因を突き止め改善しなくてはなりません。

業態転換は、既存システムの不備を改善しても業績の回復が見込めない、変化したニーズに未対応である、差別化を図ったライバル社に勝てないなどの場合に、ターゲットのニーズに対応しつつ、ライバルに勝つために営業形態等を変更する方法になります。

(2)ニーズの変化への対応

自社事業のターゲットのニーズは決して不変ではないため、状況によりその変化に合わせて業態転換することも必要です。社会の様々な状況に応じて変化するのが人間のニーズであるため、事業者はターゲットのニーズを常にモニタリングしてその変化に対応しなければなりません。

変化が大きすぎる場合は、別の業種に変更する、事業を根本的に変える、といった選択も必要ですが、変化の程度によっては業態転換で対応できるケースも多いです。

例えば、コロナ禍で店舗内での飲食サービスの提供が困難となり、客足が遠のき業績が悪化するケースでは、宅配・テイクアウト販売の業態に転換した例が多く見られました。

この転換は「店舗内の飲食はリスクが高くなるから家に持って帰って、あるいは家に配送してもらって、食したい」というニーズへの対応です。これは、自社の飲食サービスを利用したいターゲットとニーズは同じですが、店舗ではなく自宅で食べたいというニーズの変化に対応したことになります。

業態転換でも、新たな顧客層をターゲットする多角化のタイプもありますが、基本のターゲットを大幅に変更せず、売り方や提供の仕方などを変えることで彼らのニーズの変化に対応できるケースは多いです。

(3)ライバルへの対応

ライバル社の差別的な事業戦略に対応するために業態転換が必要になります。業績不振に陥るのはターゲットのニーズの変化に対応しないことだけでなく、ライバルの営業攻勢などによって生じることも少なくありません。

例えば、最寄品の大手小売業者がその資本の大きさを背景に豊富な品揃えと低価格で攻勢をかけてきた場合、小規模な小売店の業績は低迷する可能性が高いです。

そうした場合、万人を対象とした一般的な品揃えによる店舗での小売スタイルからターゲットと売り方を変える業態転換が求められます。例えば、大手小売業者の店舗などに頻繁に来店できない高齢者等に対して、御用聞きや電話などで注文を取り宅配するという販売に変更するケースなどです。

方法・内容は様々ですが、特定のターゲットとニーズに的を絞り、ライバルが手を出しにくい方法を取ることが有効な業態の候補になります。つまり、既存市場の一部であってもライバルが入って来ないニッチな事業領域を見つけ出し、それに適したビジネスの仕組を作れば業態転換は可能です。

(4)業績悪化の歯止めと成長の持続

業績が悪化していく中で、今後の成長を図るには先手を打って業態転換することも必要になります。

(1)のように業績が大きく落ち始めるとニーズの変化やライバルの攻勢などによる影響は把握しやすく、業態転換の必要性を肌で感じることが可能です。

一方、業績が徐々に悪化していく場合、経営環境の変化に気づくのが遅れたり、どう対応するかを考えあぐねたりして、結果的に対策を実施するのが遅れることになりかねません。

こうした状況に落ち込まないためには、業績の変化とともに経営環境の変化、特にターゲットのニーズ、価値観や行動特性等の変化を注視して、その兆候を掴み、それに合わせた業態転換を進めることが必要になります。

一気に業態転換するリスクが高いと判断される場合は、部分的・段階的に導入するという方法が有効です。例えば、飲食業での店舗営業から宅配専門の業態にシフトする際には、店舗営業を主体にしつつ宅配販売を徐々に強化するという転換が考えられます。

2-3 新設会社にとっての新事業・新業態と意義

会社設立して事業を始める場合の新事業や新業態を採用するとは、どのような内容を指すのか、どのような効果があるのかを確認してみましょう。

1)新設会社にとっての新事業・新業態

新設会社にとっての新事業・新業態とは、起業や会社設立する者が以前従事していなかったタイプの事業・業態で開業することを指します。

例えば、起業前に食品加工製造業の会社に勤務していた者が、独立して飲食店を経営するといった内容になります。また、以前の会社が小売業や卸売業に商品を卸すアパレルメーカーに勤務していた者が、オンライン販売専門のアパレルメーカーとして開業するケースなどです。

新設会社の場合、創業者が以前に勤務していた会社等での事業や業態が基準となり、それと異なれば新事業や新業態での開業になります。

2)新設会社等にとっての新事業・新業態の意義

新設会社等にとって、新事業・新業態での開業には、どのようなプラス面とマイナス面があるのかを見ていきましょう。

(1)メリット

新事業・新業態での開業メリット

新事業・新業態による開業には、以下のようなプラス効果が期待できます。

●経営環境や新たなニーズへの対応

勤務していた会社では実行されていなかった経営環境や新たなニーズの変化などに対応し、それを新事業や新業態として具現化することでビジネスチャンスを掴むことが可能です。

企業によっては社内ベンチャー制度を設けて社内起業家の育成に取り組んでいるケースも少なくないですが、一方で過去の成功体験に固執し大きな変革に否定的な企業体質の会社も多いです。

後者の会社では社員の画期的な事業アイデアを積極的に採用しないため、世の中の動きを先取りした事業化は進みません。そのため新事業等にポジティブな社員は会社を退職して転職するか、独立するかの選択をする可能性が高くなるのです。

独立した場合、自身で経営環境や新たなニーズの変化に対応できる新事業や新業態でビジネスチャンスを捉え、事業を成長させる喜びを味わえるほか、やりたい仕事に従事することができます。

●業績の拡大及び企業の発展

新事業や新業態に取り組むことで、変化する環境やニーズに対応して業績を伸ばし、企業としての成長を確保することが可能です。

一つのビジネスモデルが長期に渡って持続することは困難であり、ターゲットのニーズやライバルの動向によって、収益が悪化し、そのモデルは終焉を迎えることになります。

そのため会社設立前に勤務していた会社の事業や業態では時代に適合できないケースも多いため、その適合可能な新しい事業や業態での開業が必要とされるのです。これまでの事業・業態に陰りを感じている場合、独立後の企業の成長を優先するなら新事業や新業態での開業は有効な手段になるでしょう。

●競争優位性の確保

新事業や新業態で変化するニーズを捉えることができれば、それはライバルに対する競争優位性を確保することになります。ビジネスを行う場合、通常は競争相手がいてその競争に負けないことで企業を存続させることが可能です。

これまで見てきた通り、社会では政治、経済・産業、国際関係、科学技術などの変化により個人や企業などの行動が変わっていくため、様々なビジネスが誕生し、退出を繰り返すという現象が見られます。そのためビジネスの元となるニーズも移り変わりに対応する新事業や新業態が必要となるのです。

また、そうしたニーズの変化への対応とは別に企業同士での生き残りやさらなる成長をかけた争いが繰り広げられます。つまり、企業はターゲットのニーズに対応することを前提とした上でライバルに勝つ、少なくても負けないことが求められるわけです。

競争優位を獲得する方法は様々ですが、自社独自の技術で開発した新製品の投入、ライバルが真似できない事業分野への進出、ライバルがやりたがらない方法による製品・サービスの提供、などを取ることで競争優位を確保することもできます。

ライバルとの競争で不利になってきた場合も、新事業・新業態への取組は打開策にとなるはずです。

●資金調達の容易化

起業家などが新事業や新業態を考案し会社設立する場合、金融機関や投資家などから資金を集めやすくなります。

個人が起業・創業のために資金を集めるのは容易ではないですが、既存のビジネスとは異なる新事業・新業態のビジネスなら資金調達のハードルを下げることも可能です。

その理由は、現代の資金調達においては、担保の有無以上に事業の内容が重視されつつある点にあります。例えば、成長の限界が見えてきた既存の事業に投資や融資するよりも、新たなニーズを捉える新事業・新業態のビジネスに資金を提供する方がそのリターンにおいて魅力があるからです。

個人が会社設立して事業を起こし成長させるには一定の資金確保は欠かせません。その資金調達に新事業・新業態の取組は有利に働くのです。

(2)デメリット

新事業・新業態での開業デメリット

新事業・新業態の採用に関するマイナス面を確認しましょう。

●資源確保の難易度の上昇

新事業・新業態を採用する場合、新たな知識・ノウハウのほか、専門人材、未経験の設備・機器・材料等、新たなオペレーションやマネジメント、などが必要となることも多いため、その確保は簡単ではありません。

今までに経験してきた事業や業態の場合、それに要する資源にも精通し確保に目途をつけることはそれほど困難ではないでしょう。しかし、未経験の分野については、何が必要か、どのレベルのものをどれだけ用意するべきか、などを判断するのも難しく、調達先の目途をつけるのも容易ではありません。

新しいことを始める場合、こうした困難はつきものですが、資源を適切に確保できない場合は失敗の可能性を高めてしまいます。

●リスクの増大

新事業・新業態による創業は既存の事業・業態によるそれよりもリスクが大きくなりやすいです。

既存の事業・業態においては、ニーズは顕在化しており、ビジネスシステムとしても確立されているため、その状況で事業化すれば、ある程度の収益も見込めます。

一方、新事業・新業態の場合、十分なニーズが存在するとは限らず、ビジネスシステムも未経験で適切に確立できるとも言えないため、事業がスムーズに展開できないことも多いです。

従って、既存の事業・業態よりも新事業・新業態での創業のほうがリスクは大きくなり失敗する可能性が増します。もちろん成功すれば、その分良好なリターンが期待できますが、丁寧に取り組まないと直ぐに退出することになりかねません。

●必要資金の増大

新事業・新業態での事業展開は既存の事業以上に必要資金が嵩み、事業化自体とその後の運営の難易度が高くなる恐れがあります。既存の市場でもあまり採用されていない新規性の高い事業等を具現化していく場合、必要資金が既存の事業以上に割高になる可能性が大きいです。

例えば、生産設備・機械、材料・部品、梱包・包装、など製造等にかかわるコストや、それらの開発費、作業・運用する人材の確保と育成の費用、販路開拓やプロモーション等のマーケティングコスト、などの費用が高くなる傾向があります。

必要資金が多くなれば、資金の確保が難しくなり、開業までの時間が長引く恐れも生じます。また、十分な資金が集められなければ、新事業等を断念するか縮小して実施するかの選択に迫られることにもなりかねません。

加えて初期投資額の大部分を融資に頼る場合、開業後は重い返済に耐える経営を強いられることもあります。初期投資額の増大がその後の経営を圧迫することになり得るため、新事業・新業態に関する投資は慎重に検討しなければなりません。

3 新事業・新業態の開発事例

新事業・新業態の開発事例

ここでは三重県の「事業再構築ガイドブック(冊子版)」から新事業・新業態の開発の事例を紹介しましょう。

3-1 新商品・サービス開発の事例

「既存のお客様に新しい商品サービスを提供する」例として、「スポーツジムが会員向けの弁当販売へ進出したケース」(P31)の内容を説明します。

1)課題

A社長が経営するスポーツジムは20~40歳代の女性を中心とした会員向けに運営されていましたが、複数の競合店の進出により競争激化の状況に陥っていました。加えて、コロナ禍での外出自粛により会員の利用減や退会が多くなり売上減少に直面していたのです。

2)新事業・新業態の開発への取組

●業態転換等の必要性の認識と現状分析

A社長は上記の状況から現在のビジネスモデルの継続が難しいと考え、業態転換等の必要性を認識しました。そこで対策を検討するにあたり、現在の顧客について登録情報・商品等の購入履歴・HPの閲覧履歴等の情報を分析することにしたのです。

●潜在ニーズの発見と商品開発の構想

顧客分析によりA社長は、20~40歳代の美容や健康意識の高い女性会員が多いことに気づき、彼女らに新しい商品・サービスを提供できないか、と検討を始めました。

●協力者への相談と商品開発

A社長は近所の飲食店のB社長に相談・依頼して、彼女ら向けに「1日30食限定」の「低糖質高たんぱくのヘルシー弁当」の開発に取り組んだのです。その結果、家事で忙しい主婦や独身で働き盛りの女性会員に好評となって、その弁当は直ぐに完売されました。

3)取組の成果と今後

ヘルシー弁当が好調な結果となったほか、それが減少していたジム利用の回復や退会防止にも役立ち、プロテインやサプリメントの購入も増加して、売上が増加に転じています。つまり、新事業が既存事業の改善に貢献したわけです(相乗効果)。

今後については、他の飲食店との連携によるメニュー数・販売量の増大や宅配への対応などの検討に取り組んでおられます。

3-2 新市場顧客開拓の事例

「新しいお客様に既存の商品サービスを提供する」という例として、「高級旅館が地元客向けの中食宅配へ展開したケース」(P32)を説明しましょう。

1)課題

B社長の経営する料理が強みの高級旅館(観光地に所在)は、比較的高価格帯の団体ツアー客が主要客でしたが、コロナ禍の外出自粛で旅行ツアーが減少し厳しい経営を強いられていました。

2)新事業・新業態の開発への取組

●業態転換等の必要性の認識と現状分析

B社長はこのままの状況では事業継続が困難と考え、業態転換等の必要性を認識し、自社の商品・サービスとお客について分析を始めたのです。

その結果、商品・サービスでは、「素材」と「味」に一定のブランド力や知名度があり強みとなっていること、ニーズでは地元客からの「高級コース宴会」の利用があることが確認されました。他方、地域外の観光客の来訪は当分期待できないことが再認識されたのです(従来のニーズの回復は厳しい)。

●新たなニーズの掘りこしと商品・サービスの開発

過去の地元客の予約利用を調査した結果、中高年の男性を中心とした「同窓会」や「愛好会」などで「高級コース宴会」の利用の存在が確認されました。そして、その内容が、自宅での晩酌用の「和食と日本酒のセット」の商品化の構想に繋がったのです。

●マーケティング活動

販売の取組として、過去に宴会で利用してくれた地元客へのハガキの郵送、車で30分圏内への折り込みチラシの配布、品数を絞り込んだ「和食メニュー」と「日本酒」のセットのPR、が実施されました。

3)取組の成果と今後

取組の結果、地元客からよい反響があり、口コミでさらに新しいお客からの注文が入っています。このことで購入する食材等の購入量を維持することができ、仕入価格の見直に繋がって収益が改善されるようになりました。

今後については、B社長は仕入先との情報共有を進め、さらなる地元客の開拓を模索されています。

3-3 多角化の事例

「新しいお客様に新しい商品サービスを提供する」という例として、「板金加工会社がアウトドア業界へ展開したケース」(P33)を説明しましょう。

1)課題

C社長が経営する板金加工業(店舗建築向・受託生産)の会社は、コロナ禍での外出自粛や営業自粛で業績が低迷する小売業や飲食サービス業の影響を受けて、注文が大幅に減少し厳しい経営に陥っていました。

2)新事業・新業態の開発への取組

●現状認識から業態転換等の検討

C社長は、現状の厳しい経営状態から業態転換等が必要と検討し始め、自社の商品・サービスとお客を分析されたのです。その結果、商品に関する面として、「鉄」「ステンレス」「チタン」などの様々な種類の金属板金加工ができるベテラン技術者の存在が強みだと再認識されました。

お客については、従来からの顧客である小売店や飲食店はコロナ禍で厳しい状況が続くと分析されています。一方、従来の顧客ではない消費者について分析すると、「巣篭もり需要の増加=在宅&インドア傾向」という状況にあり、「アウトドア需要が高まりつつある」ということに気づかれました(新しいお客のニーズの把握)。

●過去の体験から新事業を構想

以前に地元の子ども会や社員から、キャンプ用品の要望がありハンドメイドで対応した経験があり、そのことから「自社の技術力を活かしたハンドメイドのアウトドア用品を一般顧客に提案できないか」と発想されたのです。

●新製品の開発とテストマーケティングの実施

同社は以前に経験のある「ステンレス製のテーブル」と「チタン製の鍋」をハンドメイド品として試作し、雑貨店にて陳列してもらいました。

3)取組の成果と今後

上記のテストマーケティングで商品は直ぐに完売となり、在庫や予約などの問い合わせが多数寄せられるという良い反響が得られたのです。この状況を見て同社は、社員総出でまとまった数の商品を製作するに至りました。

今後については、C社長は雑貨店とコラボ商品の開発を進めており、ほかにも自社WEBサイトでの予約注文販売の実施も検討されています。

4 新事業・新業態で会社設立する場合の進め方のポイント

新事業・新業態で会社設立する場合の進め方のポイント

開業時に新事業・新業態を採用する場合の進め方について、その重要点を説明しましょう。

4-1 事業のアイデア・理念・ミッションの構想

会社設立して開業する場合、ビジネスの主な内容、経営方法、事業の目的、実現する目標や使命、などビジネスアイデアの発想と事業に対する思い(理念・ミッション等)を明確にしなければなりません。

1)ビジネスアイデアの発想

学生時代の学習・研究を通じて得た知識や技術、会社勤務時代に培ったノウハウや把握できた未開発のニーズなどから、「こんな製品やサービスを○○の人達や企業に提供したら魅力的なビジネスになるのではないか」といったアイデアを、まず発想する必要があります。

この発想が具体的なビジネスアイデアの最初のステップとなりますが、この段階では思いつくままにアイデアをどんどん挙げていきましょう。

2)事業の理念やミッションの設定

起業には様々な困難が伴うことも多いですが、その中で創業者の事業に対する思い入れが事業推進の原動力となることから、理念やミッションの設定は重要です。その理念の内容を具体的にするためには、実際に行う事業の内容を明確化する必要があり、この段階ではアイデアをもとに理念等を検討しましょう。

例えば、「こうしたビジネスを展開することを通じて、○○の点などで社会に貢献する」といった理念やミッションを構想します。ビジネスを行う目的は創業者によって様々ですが、仕事としてやりたい方向性を明確にしておくことは今後の企業経営において不可欠です。

4-2 環境分析から事業構想へ

上記のアイデアと理念等を踏まえて、アイデアの絞り込みからビジネスのコンセプトとモデルの構想へと進めていきますが、そのためには内外の環境分析を実施しなければなりません。

1)環境分析

内部環境分析は、創業者自身やその創業者メンバーの有する強みや弱みの部分を棚卸して評価することです。自身・彼らが、どのような知識・技術・ノウハウ・キャリア・情報(ニーズ情報等)・人脈・資産、などを保有していて、何が得意なのか、などを洗い出して整理します。

外部環境分析では、政治・経済・社会・技術のほか、対象市場の状況(競合やニーズ 等)などが分析対象です。対象市場に関する事業機会の有無・程度やリスクとなり得る脅威の存在などを明確化します。

2)アイデアの絞り込みと事業コンセプトの構想

複数の候補のアイデアを環境分析と理念等の点から評価し絞り込み、ビジネスコンセプトへ昇華していきます。

創業者(グループ)の強み、市場での新たなニーズの存在、などとビジネスへの思い入れ等から最も適したアイデアを具体的なビジネスの形になるように構想するのです。

ビジネスコンセプトとは、ビジネスにおいて「誰に」「何を」「どのように」提供していくかを端的に表現した内容になります。ビジネスモデルは、このコンセプトをより具体的な仕組として表現するものです。

「誰に」は誰をターゲットにするか、「何を」はターゲットのどのようなニーズをどの製品・サービスで充足するか、「どのように」はどのように製品・サービスをターゲットに提供するか、届けるか、といった内容になります。

このコンセプトの構想にあたってはターゲットにとってどのような魅力的な価値を提供できるか、に着目することが重要です。

例えば、文房具通販のアスクル株式会社のビジネスコンセプトなら、「オフィスで必要な1本の鉛筆でも明日必ず届ける」といった内容になります。ターゲットは主に中小事業者等で、必要とする文房具等を必要数量だけ「明日」には届ける、という内容が基本コンセプトになるでしょう。

3)新事業・新業態の検討

コンセプトを決定するにあたり新事業・新業態での事業化の可能性を検討します。なお、この構想においても、「アンゾフの成長マトリクス」(新製品開発戦略、新市場開拓戦略、多角化戦略)などのフレームワークが参考になるでしょう。

例えば、卸売業に消費者向けの洗剤を卸していたメーカーで、製品開発の業務に従事していた者が独立する場合、「全国の清掃事業者等を対象として洗剤を、便利で早い、をモットーに提供する」というビジネスを構想すれば、「新市場開拓戦略」を採用したことになるはずです。

アンゾフの成長マトリクスにこだわる必要はないため、新事業・新業態の構想や評価に有効なツールを活用しましょう。

4-3 ビジネスモデルからシステムの確立へ

次はビジネスコンセプトを具体化して、実際に提供するビジネスの仕組となるビジネスモデルを構想し、業務として運用していくためのシステムを確立します。

例えば、先の洗剤事業者を例にすると、以下のようなビジネスモデルを構想することが可能です。

  • Who:全国の中小規模の清掃事業者
  • What:オフィスや工場の床、窓、机などをクリーニングする洗剤を提供する
  • How:業務用として最適な容量の商品をオンライン販売で即納する

このモデルの業務システムとして、以下のような内容が考えられます。

  • ・顧客の要望の多い容器(缶やスプレー等)や容量での対応のほか、大容量化でも提供する
  • ・インターネットで24時間いつでも受注対応する
  • ・必要数量を17時までなら当日出荷・翌日納品する
  • ・3000円以上の注文は送料を無料とする
  • ・多様な決済手段を提供する

この例は内容的には販売の仕方を従来と異なる方法に変えるという新業態への転換とも言えるでしょう。勤務先の顧客は消費者でしたが、自分の会社ではターゲットを事業者とする新市場への進出です。

一方、提供する商品・サービスは洗剤という点は同じですが、新ターゲットに合わせて業務用として使い勝手の良い容器や容量での対応としています。また、以前の会社では卸売業を通じた販売が主体でしたが、自社ではインターネット経由での不特定多数の事業者への直接販売です。

便利さと速さを売とするため、ネットでの24時間の受注対応と当日出荷・翌日納品を基本としたサービスが提供されます。送料も顧客の負担が小さくなるように3000円以上の注文は送料無料とし、各事業者が利用しやすいようにクレジットカードや電子マネーなど多様な決済手段を用意するのです。

以前の会社や業界でのビジネスモデルなどを分析し、他社が採用していない、大手などが真似しにくい差別的で優位に立てるような新業態等のモデルやシステムを検討しましょう。

4-4 ビジネスモデルの評価と事業計画化

ビジネスモデルの構想後、その事業化の前にモデルの内容を評価し、有効かどうか検証する作業が必要です。詳細に行い過ぎると負担が重くなるため、以下のような点などを中心に確認しましょう。

・ターゲットとニーズの妥当性

対象とするターゲットに想定したニーズが本当に存在するのか、チェックが必要です。一定のアンケート調査や行動分析などを実施してそれらの存在の確認が不可欠です。

・需要量や収益性の妥当性

ニーズに基づいたモデルでも需要量そのものが少なければビジネスとして成立しません。そのため需要量が一定以上期待できるか、将来に向けて増加していくか、などのチェックも求められます。

また、需要量が健全であっても構想したモデルの収益性が低くては事業の継続は困難です。そのため事業計画の作成前に収支計算書(「売上高-売上原価-経費=利益」を月ベースでまとめた資料)等を作成し収益性を評価しましょう。

その利益額や利益率について、ライバルや市場平均などと比較することで収益性がある程度判断できます。

・システムの実現可能性

収益性は良行でもそのモデルを実行するためのシステムを確立できなければ意味がありません。そのため構想のシステムを組めるかどうか確認しましょう。例えば、先の洗剤事業者の例では以下のようなチェックが必要です。

  • 予定の容器の確保、大容量化の目途
  • 自社サイト等での受注システムの構築と運用
  • 翌日納品が可能となる物流システムの確立
  • 送料無料などの物流コスト負担の妥当性
  • 多様な決済手段の実現性

各項目の仕入先や依頼先などに具体的な条件等を提示の上、正式な見積りや仕様書などを求め確認しましょう。

4-5 事業化及び開業に向けての準備

ビジネスモデルの検証の後は、事業化と開業に向けた準備を進めて行きます。具体的には、事業計画書を作成し、それに基づいた必要資源の確保に目途をつけ、その後に法人化する場合は会社設立の準備を進める、といった流れになるでしょう。

1)事業計画書の作成

事業計画の作成方法は様々ですが、時間や労力の点から重要事項を中心に簡潔にまとめることが重要です。例えば、公的支援機関などで求められる事業計画の内容としては、以下のような項目が要求されます。

  • A 事業概要(経営者の経歴等、開業の動機、事業理念やミッション 等
  • B 事業内容(事業コンセプト、環境分析、簡単な販売・仕入の計画、実施体制・要員計画 等)
  • C 数値計画(投資・調達面の計画、数年程度の損益計画 等)
  • D 実行計画(数年間に実施する手続、販売・広報、人材確保や投資などの重要な活動内容)

計画は、目的や目標を達成するために必要な活動を、漏れなく効率的・効果的に実施するための重要な資料です。また、計画書は管理ツールとしても有効であるため最大限活用しましょう。

2)必要資源の確保

計画に合わせて各種の必要資源を準備していくことが事業の成功に欠かせません。その準備が適切なタイミングで実施されないと、予定した活動ができなかったり、失敗したりする可能性を高めてしまいます。

そのため実行計画の内容とその時期に合わせて、各種の必要資源を確保するというスケジュールをできるだけ正確に立案しましょう。なお、その各種の資源を確保するための前提として、それらにかかわる必要資金の確保が第一に優先されます。

開業前後の初期投資と開業からの一定期間(半年等)の事業運用(運転)の資金を把握し、開業前に資金調達できるようにしましょう。

3)組織形態や会社設立等の検討

事業計画の策定や資金調達の目途がつけば、会社設立などを含む事業を推進するための組織を考える必要があります。

ビジネスモデルの内容や実施規模などに適した組織を作るためには、個人・法人という事業組織の形態や、直営店制・代理店制・フランチャイズチェーン(FC)制等の販売組織等の形態、などを検討しなければなりません。

投資負担を抑え、小ぢんまりと事業をスタートさせたい場合は、個人事業主として開業することも有効ですが、ある程度の事業規模でスタートしたい場合は信用面や取引面で有利に働く株式会社などの会社組織が適しています。

ただし、会社設立にはその法人種類ごとの各種の手続があるため、事前に把握して適正に進めることが重要です。法人化の手続には一定の時間・手間・費用もかかるため、それらを踏まえた準備も必要になります。

事業の運用面に関する組織形態については、事業内容や成長段階などを考慮して導入・変更することが重要です。自社のビジネスモデルが成功して、事業を一気に拡大させたい場合などはFC制を導入するといったケースがよく見られます。

もちろん資金を含む資源が十分にあるなら開業時からFC制で運営するという選択も有効ですが、ビジネスモデルとしての成功実績やFCの信用度・知名度などがある程度ないと急速な拡大は困難になりやすいでしょう。

5 まとめ

混迷する時代の起業・会社設立のポイント

コロナ禍や物価高騰などの厳しい環境の中で会社設立して事業を成功させるには、既存の事業・業態とは一線を画するようなビジネスで開業することが重要です。

既存の事業・業態では市場競争は激化し、変わりゆくニーズへの対応が不十分となりやすいため、新事業・新業態での事業化が求められます。新しいタイプの事業等を進めるのは簡単ではないですが、これまでの情報をもとに新事業・新業態での創業を検討してみてください。

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