新型コロナが収束へと向かっている現在、海外からの訪日客が急増しており、インバンド需要の回復が期待できるようになってきました。そのためコロナ禍で縮小した各種のインバウンドビジネスにおいても、その回復が見込まれこの分野での起業、会社設立、再チャレンジの活発化が期待されています。
今回は、アフタコロナへと向かう中でインバウンドビジネスを始める方などのために、この分野で成功するためのビジネスのあり方やその創業でのポイントなどを解説することにしました。
今後のインバンド需要の見通し、インバウンドビジネスの戦略や成功するためのポイント、当該分野で起業・会社設立するための進め方のポイントなどを知りたい方は参考にしてみてください。
1 インバウンド需要の状況や問題点
「インバウンド(inbound)」とは、「入ってくる」「本国行きの」という意味の言葉ですが、ビジネス用語としては「インバウンドマーケティング」等で使用されていました。
インバウンドマーケティングの意味は、消費者などの買手自身に購買行動を起こすように促すマーケティング活動(現代ではWEBを活用した手段が主流)と言えます。
「インバウンド」には上記のような意味を持ち利用もされていますが、旅行業界では「外国からの訪日客」として使用されることが多いです。そして、「インバウンド需要」とは「日本に訪れた外国人が日本国内で消費する商品やサービスに対する需要」と見なされています。
従って、訪日外国人の数が多くなるほど、そして彼らが日本で購買する量や金額が多くなるほどインバウンド需要や市場は大きくなり、関連するビジネスや参入する企業も増えていくことになるのです。
逆に訪日外国人数が減少し、国内での購買量等が減少すれば、インバウンド需要は減少し、関連ビジネスは停滞・縮小し、撤退する企業も増えていくことになります。インバウンド需要にはこうした特性があるため、その点を踏まえて影響する要因を認識してビジネスを展開していかねばなりません。
1-1 インバウンド需要の最新状況
ここではインバウンド需要の特徴と最新の状況を確認しましょう。
1)インバウンド需要の特徴と経済的な位置づけ
インバウンド需要は日本を訪れる外国人観光客等によって消費される商品・サービスの総量と言えますが、主に国内で消費されるものであることからGDPにおいては輸出として位置づけられます。
GDPは「民間消費+民間投資+政府支出+(輸出-輸入)」として表されることから、輸出額が増大するほどGDPは増加するわけです。従って、輸出に相当するインバウンド需要が増加すれば日本のGDPはプラスに働きます。
日本の輸出額は2007年頃に80兆円超となってピークに達し、その後のリーマンショックで大幅に落ち込んで以降緩やかに回復しつつありますが、輸入額が輸出額を上回る貿易赤字が頻繁に発生することが多くなりました。
つまり、日本経済を牽引してきた輸出という力が日本では弱まっており、日本の経済成長の鈍化が危ぶまれる状況になっているのです。こうした状況にあって、輸出として位置づけられるインバウンド需要の存在は今後とも重要になるでしょう。
インバウンド産業は、輸出産業ほど雇用を含む経済波及効果は大きくないですが、鈍化している輸出産業を補う産業として期待されます。また、少子高齢化や人口減少が進む日本においては、今後日本人による国内消費額が減少する可能性が高いですが、インバウンド需要がそれを補ってくれるのです。
訪日外国人の増加と伴にインバウンド需要が増加すれば、減少しつつある国内消費額やそれに伴い失われる雇用数の補完が期待できます。
2)今日までのインバウンド需要
これまでのインバウンド需要の状況を紹介しましょう。
(1)訪日外客数
下表は日本政府観光局(JNTO)のデータに基づき作成したグラフです。2000年頃の訪日外客数は年間500万人足らずの状態で、2004年頃から少し増え始めましたが、リーマンショックの影響を受け以降停滞しています。
その後、第二次安倍政権の発足に伴い、アベノミクスの成長戦略の一環として観光立国政策が強化されることになりました。その結果、2012年当時の訪日外客数は約800万人でしたが、2019年には約3200万人と約4倍に増加しています。しかし、コロナ禍により2020年以降は大きく減少しました。
(2)外国人宿泊者
2012年の外国人延べ宿泊者数は約26百万人泊でしたが、2018年には94.3百万人泊と約7倍へ増加しています(2021年は16.8百万人泊)。
(3)訪日外国人消費動向
下表は観光庁が提供している訪日外国人消費動向等に関するデータをまとめたものです。
第二次安倍政権の観光立国政策の推進により訪日外国人の国内消費額は2012年の1兆861億円から2019年の4兆8,135億円へと4倍以上の増加となりました。
訪日外国人1人当たりの消費額も11.2万円から15万円台後半へと増加しています。2020年からは新型コロナの影響により激減しましたが、その前には年間5兆円近い規模の市場にまで成長しており、多くの企業の成長と雇用に繋がったと考えられます。
年 | 消費額(億円) | 1人当たり(万円) |
---|---|---|
2012 | 10,861 | 11.2 |
2013 | 14,167 | 13.7 |
2014 | 20,278 | 15.1 |
2015 | 34,771 | 17.6 |
2016 | 37,476 | 15.6 |
2017 | 44,162 | 15.4 |
2018 | 45,189 | 15.3 |
2019 | 48,135 | 15.9 |
2020 | 7446(試算値) | 18.5 |
2021 | 1208(試算値) | - |
2022 | 8,987 | 23.5 |
3)2023年のインバウンド需要の動向
2022年10月から新型コロナに対する水際対策が緩和されて以降、訪日外客数が急速に回復し始めました。2023年1月の訪日外客数は約150万人で、2019年同月比で見るとマイナス44.3%と半分近い水準まで回復しています。
また、2023年1-3月期の訪日外国人旅行消費額は1兆146億円となっており、2019年同期比のマイナス11.9%となりました。なお、訪日外国人(一般客)1人当たり旅行支出は21万2千円と推計されており、1人当たりの支出額ではコロナ禍前の水準を上回っている状況です。
現在のインバウンド需要はコロナ禍前の水準を伺う状態となっており、更なる回復が期待されます。
4)今後のインバウンド需要の可能性
株式会社日本政策投資銀行(DBJ)と公益財団法人日本交通公社(JTBF)が共同で行った「DBJ・JTBFアジア・欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査(2022年度版)」からアフタコロナでのインバウンド需要の動向を考察してみましょう。
(1)旅行先としてトップを維持
「次に海外旅行したい国・地域」についての問いに対して、日本は2019年度から1位を維持しています。
調査年(開始月) | 1位 | 2位 | 3位 |
---|---|---|---|
2019年6月 | 日本 49% | オーストラリア 41% | ニュージーランド 39% |
2020年6月 | 日本 46% | 韓国 22% | オーストラリアとタイ 16% |
2020年12月 | 日本 57% | 韓国 32% | オーストラリア 27% |
2021年10月 | 日本 57% | 韓国 32% | オーストラリア 27% |
2022年6月 | 日本 52% | 韓国 31% | オーストラリア 28% |
上表の通り、近年の調査では日本は2位に大きな差をつけて1位を持続しており、その人気の高さがわかるはずです。2020年以降の調査では新型コロナの影響を受けた状況での調査となっているため、対象国の感染状況、感染対策状況およびその緩和状況などが結果に表れている可能性があります。
その点を踏まえても日本の旅行先としての魅力は他国と比べて十分にあると言えそうです。
(2)アジア居住者の旅行先としてもトップ
「次に海外旅行したい国・地域」についてのアジア居住者の考えを確認してみると、やはり日本は断トツの1位を維持しています。
調査年(開始月) | 1位 | 2位 | 3位 |
---|---|---|---|
2019年6月 | 日本 55% | 韓国とオーストラリア 38% | 台湾 28% |
2020年6月 | 日本 56% | 韓国 30% | 台湾 23% |
2020年12月 | 日本 67% | 韓国 42% | 台湾 30% |
2021年10月 | 日本 67% | 韓国 43% | 台湾 28% |
2022年6月 | 日本 64% | 韓国 31% | タイ 28% |
アジア居住者にとって、日本は比較的近い距離にあり行きやすい国であることに間違いはないですが、このアジア地域の人々を今後とも取り込んでいくことがインバウンド需要を拡大させるために重要となるでしょう。
(3)欧米豪の次の旅行先としては2位
「次に海外旅行したい国・地域」についての欧米豪の居住者の考えを確認してみると、1位は米国で日本は2位(同率)に転落しました。
前回調査では日本は1位でしたが、今回の調査では選択率で8ポイント下がり米国と7ポイント差の2位です。アフタコロナからは新型コロナの影響が減少することもあり、地理的に遠い欧米豪の居住者への対策が求められるでしょう。
(4)日本の強み・日本を訪れたい理由
最も訪問したい国・地域の「訪問したい理由」についての問いでは、日本は「食事のおいしさ」「治安の良さ」「買物」「宿泊施設」について31カ国・地域の中で最も評価が高いです。
また、上記の項目のほか、「行きたい観光地や観光施設があるから」「清潔だから」「体験したいツアーやアクティビティーがあるか」も各々トップ3に入っており選択率が80%を超えています。
以上のように日本は観光資源が優れているほか、訪問地として安全に楽しめる環境も評価されていることが分かるはずです。こうした環境を維持向上し、海外へさらにアピールしていけばコロナ禍以前にも勝るインバンド需要を期待できるでしょう。
1-2 インバンド需要の問題点
回復が期待されるインバンド需要ですが、懸念事項もあるため注意が必要です。
1)新型コロナの再拡大やインフルエンザ等の流行
新型コロナの感染拡大は世界的に収束に向かいつつあるように見えますが、確実とは言えません。また、日本では新型コロナの第9波の兆候が見え始め、インフルエンザの流行も心配されています。
特に新型コロナについては中国での再拡大に要注意です。中国疾病予防コントロールセンターは2023年6月11日に、5月はじめに1日あたり約18万人だった感染者が16日には2倍の36万人に急増した、と発表しています。
その後の5月末には約29万人にまで減少していますが、現在は大規模なPCR検査などは行われておらず、実際の感染者はもっと多いのではという声も聞こえているのです。
中国の感染症の専門家の中には、「6月末に第2波のピークの到来」や「1週間での感染者数が何千万人に達する可能性」を指摘する者もおり、大幅な感染拡大が心配されます。
2023年4月5日から中国本土からの直行便による全入国者に対する、「出国前72時間以内の陰性証明の提示」が必要なくなり、新型コロナの感染症法上の分類が「5類」に引き下げられたことにより5月8日以降、日本では接種証明の提示も不要となりました。
しかし、上記のような感染拡大が進めば、中国政府や日本政府も何らかの対策を講じる必要に迫られ、出入国等での制限を課す可能性が懸念されます。そうなった場合、インバウンド需要の回復が鈍化することになるでしょう。
中国からの訪日客数はコロナ禍前では全体の6・7割ほども占める規模であったため、その中国の回復の遅れがインバウンド需要全体に悪影響を及ぼさないか心配されます。
また、世界では様々な感染症が発症しているため、その動向には注視しておくことが必要です。6月以降の南半球でのインフルエンザの拡大、東アジアでのサル痘の流行の兆し、インド・インドネシアでの麻疹流行、東南アジアでのデング熱の流行、などが確認されており、その動向には注意しておかねばなりません。
2)中国や韓国からの訪日客への対応
中国や韓国からの訪日客はこれまでのインバウンド需要の大部分を占めましたが、これらの国と日本との政治的な関係は必ずしも良好とは言えません。そのため、彼らとの対立が進めば日本に対する渡航を制限したり、不買運動などを助長したりする可能性が高くなり、インバンド需要に影響します。
中国と日本との関係では、尖閣諸島問題、台湾問題、米中対立に伴う半導体関連の輸出制限などの問題があり、決して良好な状態ではありません。これらの問題がさらに深刻化すれば、中国が日本に様々な圧力をかけ日本への渡航を制限する可能性も低くないでしょう。
また、国有メディアなどを通じて日本製品に対する不買運動を煽る可能性もこれまでの中国政府の対応から十分に想定されます。
韓国については、現在のユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領政権は日本に対して友好的です。前政権で最悪となった日韓関係が正常化されつつあり、韓国からの訪日客が増え、日本製品の購買も増えだしました。
しかし、現在の保守政権から、また左派政権に代われば反日政策が強化され、インバウンド需要にも影響が出ることは容易に想像がつきます。
このように日本のインバウンド需要は、直ぐに悪影響が出かねない国に支えられているという危うい状況にあり、極端に依存しないビジネス構造を作ることが必要になっているのです。
3)訪問者の国籍・地域の偏り
上記の通り訪日客の国籍や地域が偏っているため、それを平準化し他の国・地域からの訪日客を増やすことが課題となっています。
コロナ禍前の訪日客の国籍等を見ると、中国と韓国のほかに台湾、香港、タイ、シンガポールなどアジアの国・地域が圧倒的に多いです。2019年では全体の約85%がアジアの国・地域が占めています。こうした偏りは健全ではないため改善が必要です。
欧米諸国からの訪日客はまだまだ少ない状況にあり、これを大幅に改善していくことが健全なインバウンド需要の形成に繋がります。
4)訪問地の偏り
下図は日本政府観光局の観光統計データ「2019年の都道府県別訪問率ランキング」のデータをもとに作成した資料です。訪日旅行者の都道府県別の訪問率を示したもので上位18位まで含まれています。
トップは東京都の47.2%、次いで大阪府38.6%、千葉県35.1%、京都府27.8%、奈良県11.7%となっています。6位の愛知県から18位の石川県までは2%~9%となっており、上位5位までとの差が大きいです。
また、19位以下から最下位までは約0.2~1.9%となっており、上位18位までとの差も小さくありません。
東京、箱根、富士山、名古屋、京都、大阪などを巡る広域の観光周遊ルートである「ゴールデンルート」は外国人観光客の人気が高いため、その周辺地域へ訪問が多くなる傾向がありますが、地域により訪問率の差が大きい状況です。
各地域の観光資源やプロモーションの仕方などにより訪問率は影響されるため、自治体と企業等が連携して訪問率を向上させる対策を考案し実施していかねばなりません。
5)受入環境
観光庁では2016年に「訪日外国人旅行者の国内における受入環境整備に関するアンケート」を実施しました。その調査では、以下のような結果が得られています。
(1)旅行中困ったこと(複数回答)
旅行中に困った点を複数回答してもらった結果では、以下のような項目が上位となりました。
- 施設等のスタッフとのコミュニケーションがとれない:32.9%
- 無料公衆無線LAN環境:28.7%
- 多言語表示の少なさ・わかりにくさ(観光案内板・地図等):23.6%
- 公共交通の利用:18.4%
- 両替:16.8%
- クレジット/デビットカードの利用:13.6%
(2)旅行中最も困ったこと(単回答)
最も困った点の結果は以下の通りです。
- 施設等のスタッフとのコミュニケーションがとれない:28.9%
- 無料公衆無線LAN環境:18.5%
- 多言語表示の少なさ・わかりにくさ:13.3%
「困ったことはない」とする回答が30.1%存在するものの、以上の通り言語を含めてコミュニケーションが取りにくい点、それを補完するためのインターネットの利用環境が十分でない、などが主な問題であり改善が求められます。
2 インバウンドビジネスの現状や種類
ここではインバウンドビジネスの主な内容、現在の状況や種類などを見ていきましょう。
2-1 インバウンドビジネスとは
インバウンドビジネスとは、日本を訪れる外国人をターゲットとするビジネスや、それに関連するビジネスであり、インバウンド需要に対応するビジネスです。
インバウンドビジネスは多岐に渡りますが、訪日外国人の消費額を大まかに分けると、「宿泊費」「飲食費」「交通費」「買物代」「娯楽サービス費」が挙げられます。
従って、旅館・ホテル等の宿泊業、レストラン・寿司店・居酒屋等の飲食業、電車・バス・タクシー等の交通産業、デパート・コンビニエンスストア・ドラッグストア等の小売業、温泉・テーマパーク・工房等の観光・娯楽施設業、などが主な業種です。
これらの業種に関連する製造業や建設業なども間接的にインバンド需要の増加で恩恵を受けることになります。また、上記の業種とともに業務の効率化・サービスの向上等で不可欠はデジタル化を進めるIT関連もインバウンド需要の恩恵を受けやすい業種と言えるでしょう。
2-2 インバウンドビジネスのタイプ
インバウンドビジネスの具体的な業種の内容を紹介します。
1)飲食業
訪日外国人がよく利用する飲食業としては以下の業態などが挙げられるでしょう。
・レストランやカフェ
観光地や都心の交通の便が良く、訪日外国人が多く利用する駅・バスのターミナル等の付近や繁華街にあるレストランやカフェなどは外国人が気軽に利用しやすい飲食業です。
「和」を楽しむ、「和食」を堪能したい外国人のニーズを捉えるために、和食メニューや和室・畳などのスペース面で工夫を凝らす店舗も多く見られます。
・居酒屋やバー
これらは、日本のカジュアルな飲食を楽しみたい者やナイトライフを満喫したい者の利用が期待できる業態です。居酒屋はおにぎり、釜飯、寿司、刺身、うどん、から揚げなどカジュアルな日本食を気軽に楽しめる点が人気となっており、今後の利用増が期待されます。
訪日外国人は午後8時頃にはホテルに戻るため、バーなどの利用者数は多いとは言えない状況ですが、今後の対策次第では利用増を狙うことも十分可能でしょう。
・日本料理店や寿司店
日本料理を楽しみにしている訪日外国人の数は多いため、プロモーションや店舗内での接客等の改善などを行い、利用者数を伸ばしていくことが求められています。
和食のメニューの工夫、料理の見た目や調理の演出などに加え、メニュー、価格や注文・決済などが分かりやすく簡単に行えるシステムの導入が重要です。
2)小売業
多様な小売業がインバンド需要に対応しています。
・コンビニエンスストアやドラッグストア
コンビニは多くの店舗が存在して立ち寄りやすい環境にあるほか、日常使用する商品が豊富に品揃えてしていることもあり訪日外国人が多く利用しています。小型の店舗なのに多くの種類の商品が揃っている点が人気です。
ドラッグストアは医薬品のほか化粧品も豊富で食品なども充実しているため彼らにとっての人気の業態の一つになっています。日本の医薬品や食品の中には中国などで人気の高いものも多くあり、大量購入も珍しくありません。
なお、訪日外国人の利用者数の多い地域では消費税の免税制度の適用を受けられますが、ドラッグストア等が免税店になるケースも多いです。
・百貨店やデパート
都心や交通の便の良い所に位置するデパート等は商品が豊富でかつ高級品・ブランド品などが手に入るため訪日外国人が目的購買としても多く利用しています。また、訪日客の利用の多いデパート等は集客のために免税制度に対応するケースも多いです。
・ディスカウントストアやアウトレットモール
都心等にあるディスカウントストアはショッピングのテーマパーク的な位置づけとなって訪日外国人の人気を集めています。大規模店舗やビル全体などに多彩なジャンルの商品がディスカウント価格で豊富に揃えられており、また免税対応しているケースも多いです。
外国人をターゲットした商品を豊富に取り揃え、外国人が利用しやすいスペースやPOPなどを用意して、彼らの心を掴んでいます。
アウトレットモールの中には訪日外国人をターゲットするところも増えてきました。その中には、自然や伝統・文化、最先端のショッピング空間、子ども向けの遊戯場、などに対応して外国人の人気を集めるモールも少なくありません。
アウトレットモールの中にドラッグストアなどが入店しているケースもあり、訪日外国人にとっては観光だけでなく、多様なショッピングが可能でお土産などが容易に入手できる拠点となっています。
・ファッション専門店
カバン、アパレル、アクセサリー、メガネ、などのファッション製品を販売する専門店の中にはインバウンド需要に対応する店も多いです。日本の文化やファッションに興味を持つ外国人が増えてきたこともあり、日本製のカバンやアパレルなどで人気が高まっています。
3)製造業
外国人の人気を集めている、食品・お菓子、酒類・飲料、化粧品・医薬品、日用品、などの商品の製造業も有望なインバウンドビジネスの一つです。そして、彼らはインバウンド需要を取り込むための商品開発に注力しています。
例えば、お菓子では、中国や欧米などで人気となっている「抹茶(味)」のお菓子を多く商品化しました。化粧品では訪日外国人向けや海外での販売向けにブランドを開発して、人気を集めているケースも少なくありません。
日本の医薬品や化粧品は品質が高く性能もよいほか、体質や肌との相性もよいことからアジアの人々での人気が高く、帰国後に越境ECなどで購入するケースも増えています。
酒類では日本酒の輸出が好調で訪日外国人の需要増の期待も高いです。また、酒蔵の見学が観光資源として活用されているケースも増えており、「伝統的酒造り(日本酒、焼酎、泡盛など)」のユネスコ無形文化遺産の登録が実現すれば、日本酒は一層人気が高まるでしょう。
4)宿泊業・観光施設業
訪日外国人が利用する宿泊施設としては、旅館・民宿・民泊や(リゾート)ホテル・ビジネスホテルなどが挙げられます。訪日外国人の目的によって、利用される施設が異なってきますが、モノ消費からコト消費への比重が高まる中、地方での観光やレジャーなどを楽しむための施設の利用増が期待されるでしょう。
楽しみたい体験として、食事のほか、温泉、花・紅葉、雪景色、ウィンタースポーツなどの人気が高いです。そのため地方等ではそうした体験やアクティビティーの利用しやすい施設のニーズが高まることが見込まれます。
都会での施設は、買物や移動に便利な立地であることやそのサポート、目的・好みに合った価格帯、wi-fi環境の整備、などが特に重視されるでしょう。
5)交通産業
訪日外国人が利用する国内の交通機関としては、飛行機、電車(新幹線を含む)、バス、タクシー、レンタカー、などが挙げられ、公共交通機関の利用も多いです。
国土交通省の「FF-Data(訪日外国人流動データ)の概要と利用例」(令和3年3月)のデータを見ると、2019年での訪日外国人が利用した交通機関(全国)としては、鉄道54.1%、バス33.4%とこの2つが圧倒的に多く利用されました。
その他では、レンタカー3.7%、タクシー・ハイヤー2.8%、国内線飛行機2.5%などとなっていますが、地域によって利用される交通機関の差が大きいです。観光は宿泊、飲食、移動、買物、体験などの活動が伴うため、交通機関として、他の産業や行政と連携して、訪日外国人のニーズに応えられる移動手段を整備していくことが求められます。
3 アフタコロナでのインバウンド戦略の重要点
アフタコロナ下でのインバウンド需要に対応する戦略上の重要ポイントをいくつか説明しましょう。
3-1 コト消費への対応
アフタコロナ下ではモノ消費からコト消費(商品・サービスの利用・体験を通じて得られる価値を重視した消費行動)に対応したビジネスが重要になるでしょう。
コロナ禍以前の2015年頃では中国人などによる「爆買い」ブームもあり、モノの消費がインバウンド需要の中心でしたが、アフタコロナ以降は以前のような爆買いを期待するのは難しいです。
世界の各国はコロナ禍で傷んだ経済を再生する途上にありますが、これまでの訪日外国人の中心であった中国の経済回復が遅れています。加えて米中対立が進展している上に、EU等での中国とのデカップリング(分断)が見え始めました。
日本と中国の関係では、尖閣諸島問題や台湾問題等の安全保障上の問題があるほか、技術移転の強制、米国の半導体規制への参加、など経済面での問題も抱えています。その結果、日本企業においては中国から撤退する企業も少なくありません。
こうした状況の中、中国では新型コロナ感染の再拡大で経済が大きく停滞することとなり、不動産産業や輸出産業などの不振、企業倒産や失業者の増加などが深刻化しており、中国経済は大きな困難に直面しています。
また、中国に次いで来訪者が多い韓国においても、半導体産業等の不調により貿易赤字が続くなど非常に厳しい状況です。従って、以前のような爆買いなどの大量購入を期待することができません。
しかし、訪日外国人の興味がコト消費へシフトしつつあります。先に紹介した調査でも「体験したいツアーやアクティビティーがあるか」という回答が上位に挙げられました。
今なお訪日でのショッピングや食事を楽しみたいというニーズは多いため、従来通りの対応も必要ですが、これらに加え魅力ある体験やアクティビティーを提供して訪日の機会を増やしていくことが必要になりつつあるのです。
3-2 訪日外国人の国籍・地域の分散化
これまでの訪日外国人の居住地域は中国や韓国が6~7割を占める多さでしたが、経済、安全保障の問題や歴史的な軋轢などによりその訪日客数が大きく変動する可能性は小さくありません。
特に政治的な思惑から日本への渡航に制限や圧力をかける可能性が十分に考えられるため、個々の企業においては両国も含め特定の国・地域に依存しないターゲットを設定することも必要です。
地理的に近いアジア諸国の中で親日国や友好的な国等をターゲットとするほか、滞在期間が比較的長い欧米諸国等をターゲットとして誘致活動等を強化することも重要になります。
新たにターゲットとする国や地域の人達のニーズを分析して、それに対応した商品や体験・アクティビティーの開発を進めてPRしていくことも必要です。
従来のターゲットと異なる、ニーズが異なるのであれば、当然、マーケティング戦略そのものを変更し、実施していかねばならない点には留意しましょう。特にニーズへの対応は重要です。
例えば、従来の買物や食事等への対応に加えて、新たに体験・アクティビティーのニーズに対応するなら、それに適したマーケティングを構築・実施していかなくてはなりません。
3-3 WEBの活用
インバウンドビジネスでは国内ECおよび越境ECに注力するほか、WEBマーケティングの推進が益々重要になります。
ECを強化することで、訪日外国人の滞在中および帰国後の購買に結び付けることが可能です。また、飲食業でも自社の調理品・加工品等を外国人に販売したい場合も同様にECの強化は有効になるでしょう。
訪日客が滞在中に購入する商品等については事前にWEBで調べてから購入するケースが多いです。また、帰国後においても彼らは日本で買った商品が気に入れば越境ECで購入を継続するケースも増えています。
今日では世界中でインターネットの利用が普及し購買に必要な情報をWEB上で探索し、それに基づいてネット経由で購入する行動が当たり前になってきました。そうした習慣が強まる中、海外での限られた時間で行う観光やショッピングを効果的に実行するにはネットでの情報収集が訪日客にとって有効です。
また、お店などの事業者が取り扱う商品・サービスについての情報を、自社サイト・SNS、国内外の旅行代理店等、旅行情報サイト、などから発信するほか、海外のインフルエンサー等を活用したPRなどが訪日客の購買・利用に結び付きます。
こうした傾向はさらに強まると予想されるため、ECを含むWEBの活用・対応は今後のインバウンド需要を取り込む上で不可欠になるでしょう。
3-4 受入環境の整備
訪日外国人を増加させリピーターを増やしていくには、日本での快適で円滑な移動や滞在を実現するための環境整備が欠かせません。これは国や自治体などのほか旅行関係会社やインバウンドビジネスに従事する事業者全体に言えることです。
先に確認した通り、訪日客が滞在中に困ったこととして、「施設等のスタッフとのコミュニケーション」「無料公衆無線LAN環境」「多言語表示の少なさ・わかりにくさ」「公共交通の利用」などが挙げられていました。
観光地・観光施設、食事・お土産、体験・アクティビティー、などの観光資源を拡大・充実するなどの施策は重要ですが、上記のような受入環境面での不備が生じていれば、旅行の満足度も半減しかねません。
そのため訪日外国人のニーズへの対応とともに、滞在や移動等での利便性や快適度を高めるための対策を講じることも必要です。自社のみでは対応が困難である場合は、旅行関係のコンサルタント、公的支援機関や同業者などと協力して対応策を講じていくことも必要になります。
4 今後のインバウンドビジネスの重要施策
上記のインバウンド戦略などをもとに重要となるインバウンドビジネスでの対策等を説明しましょう。
4-1 コト消費に関する施策
今後のインバウンドビジネスではコト消費への対応が益々重要になります。同事業においてコト消費の対象となる商品やサービスは主に「体験型観光コンテンツ」が中心になりますが、店頭での体験利用やパフォーマンスなどもコト消費の施策として有効です。ここでそれらの内容を紹介しましょう。
1)体験型観光コンテンツの主な内容
体験型観光コンテンツを、観光庁の資料(令和元年版観光白書について)などから説明します。2018年の調査で、訪日客(一般客)の主な「今回したこと」の結果が以下の内容ですが、体験型観光コンテンツとして有望です。
- スキー・スノーボード:87.4%
- 温泉入浴:75.0%
- 自然体験ツアー・農山漁村体験:74.1%
- その他スポーツ(ゴルフ、マリンスポーツ等):73.1%
- 四季の体感(花見・紅葉・雪等):71.9%
- 旅館に宿泊:70.6%
- 自然・景観地観光:63.3%
- スポーツ観戦:58.3%
- 日本の歴史・伝統文化体験:57.7%
以上のほかには「ショッピング」「治療・検診」「日本食を食べること」「舞台・音楽鑑賞」「日本のポップカルチャーを楽しむ」「映画・アニメ縁の地を訪問」「テーマパーク」などが挙げられています。
こうしたコンテンツの内容は訪日外国人の国籍・地域等によって偏りもあるため、対象とする訪日客のニーズを調べ、それに対応できる観光資源を自社で見出し活用していくことが必要です。
2)具体的な対応例
以下のような事例があります。
●オンラインツアー
今、日本に訪問することが困難な外国人向けのオンラインツアーが提供されるようになりました。香川県の琴平バスは、日系旅行会社IACEトラベル(米国)と提携し、米国で四国のバーチャル旅行を案内するというオンラインバスツアーを開催したのです。
日本の観光や文化等に興味がある方達にツアーで回る観光地や施設のほか、そこで体験できる内容を説明するとともに、食事の内容・特徴や食べ方などを紹介するといった内容がこのツアーのコンセプトになっています。本ツアーの体験により実際の訪日観光に繋がると期待されているのです。
●農園
旅行会社とリンゴ農園とが連携して、観光農園を運営している例があります。日本旅行ファームは、株式会社日本旅行と飯山市の塩崎農園とが連携して、国内外の顧客にもりんご狩りをお楽しんでもらえるように設立された農園で、リンゴ狩りのほか地域と連携したサイクリングツアーも開催しています。
リンゴ狩りという体験だけでなく、周辺の自然や観光施設等を楽しめるサイクリングツアーというアクティビティーは訪日客を惹きつける誘因になり得るでしょう。
●フードツーリズム
グルメ体験、グルメツアー、料理教室などを商品・サービスとして提供するフードツーリズムの事例が増えてきました。
・百年料亭ツーリズム
これは、百年以上続く料亭を拠点に据えて、日本の建築技術や伝統の日本料理を、各地域の伝統文化の体験等とともに楽しむツアーです。
・ONSEN・ガストロノミーツーリズム
これは、日本の温泉地を拠点として、地域の「食」「自然」「歴史・文化」等の観光資源についてウォーキング等を通じて体感するツアーになります。
・酒蔵ツーリズム
これは、日本酒の蔵のほか、蒸留所やワイナリー、ブルワリーなどを訪問して、お酒とともに、その土地の自然、郷土料理や伝統文化などを楽しむツアーです。
4-2 観光DX等の推進
増加しつつある需要に対応するためには人員確保が不可欠ですが、全般的な人手不足に加え、コロナ禍で人員削減した業界での人員確保がより困難に可能性があります。そのためデジタル技術等を活用した省人化に役立つ改革も必要です。
全般的に人手不足で困っている産業界ですが、特に「宿泊・飲食サービス」の「人手不足感」は製造業や他の非製造業と比べより深刻さを増しています。この状況に対応する方法として、業務改革等による省人化が有効です。
既存業務の効率化はもちろんですが、特に課題となっているコト消費への対応や受入環境の整備面でDX等を進めることが必要vになってきています。
「観光DX」とは、「業務のデジタル化により効率化を図るだけではなく、デジタル化によって収集されるデータの分析・利活用により、ビジネス戦略の再検討や、新たなビジネスモデルの創出といった変革」として、観光庁は位置付け推奨しています。
●事例
・ロボットの活用
株式会社JTBは自治体・行政機関向けサービスとして、モバイル型コミュニケーションロボットを活用した観光ショーケース化事業をスタートさせました。
「京都」という世界的な観光地に、モバイル型コミュニケーションロボットを導入し、「観光人材不足問題の緩和」や「日本らしいおもてなし観光」という付加価値を提供することに挑戦しているのです。
位置情報やビーコンの整備による観光案内、店舗への誘導、ロボットによる接客、同時通訳機能などを、コミュニケーションロボットを通じて行い地域の観光エリアのマネジメントに役立てています。ほかにツアーに随行させるロボットや店舗に設置するロボットなどが提供されています。
・配膳管理システムの活用
旅館・ホテルなどで配膳管理システムを導入するケースが増えてきました。同システムを利用することにより、スタッフがお客一人ひとりの予約情報や食事情報を共有することができ、携帯しているスマホにその情報が瞬時に反映されるため、ロスのない業務運営が実現されているのです。
また、このシステムにより食事時の業務が混乱しやすい状況でも人的なミスが大幅に減少しており、人手が十分でない中より効率的な業務運営が実現されています。
4-3 WEBマーケティングの強化
WEBサイトやSNSを使用して、有益な情報発信を続けて集客する方法のことを現在では「インバウンドマーケティング」と呼ぶことが多いです。これは国内のターゲットと接近し集客するのに有効であるほか、海外の日本に興味のある人達の集客等にも効果を発揮します。
特に現在のようなネット社会においては、購買行動はもとよりそれに至る情報の探索や収集もWEBから実施されることが多いため、WEBを利用したマーケティングは現在のビジネス全般で不可欠な手段となっているのです。
特に海外という遠く離れた場所に居住する人々と直接的・間接的にアプローチするのにWEBは有効で、インバウンド需要を取り込むのに重要な手段になり得るため、インバウンドビジネスに従事する事業者としては有効に活用しなくてはなりません。
インバウンド向けWEBマーケティングを進めるステップ等は割愛しますが、重要な施策を簡単に紹介しておきましょう。
●自社サイト等や施設内の案内・メニュー等の多言語化
世界中から自社のある地域・観光資源、商品・サービス等を認知してもらい興味を持ってもらうためには、ターゲットを対象とした情報発信が必要です。
情報発信の手段は様々に存在しますが、自社のサイトやSNS(Facebook、Youtube等)などにおいてはターゲットの国の言語のほか、英語、中国語や韓国語などの複数の言語で情報発信しなければなりません。また、PR用のビデオコンテンツなども同様の対応が必要です。
そして、実際に来店・来所してもらった場合に備えて、店舗案内、商品紹介、メニュー、利用方法・食べ方、などを多言語対応しておくことも求められます。紙等の媒体のほか、ディスプレイ等においても多言語化していくことが重要です。
●WEB広告の活用
情報検索への対応としては、WEB広告、例えば、リスティング広告(使用者が検索したキーワードに対応して表示される広告)は有効な手段となります。この広告はクリックされた際に料金が発生するため、費用対効果が高いです。
また、最近ではYoutubeの利用者が多いことからYoutube広告の利用も効果が期待できます。動画は視覚から直接的に情報を詳しく伝えることができるため、Youtube広告から自社サイトや自社のYoutube動画サイトへと誘導し、訪日・来店等に繋げるのに有効です。
●インフルエンサーの活用
ブログの愛読者やSNSの利用者が多く存在する現在においては、フォロワーを多く有し彼らの購買行動等に大きな影響を与えるインフルエンサーを活用したPRは有効なマーケティング手段になります。
ターゲットとする国・地域のインフルエンサーを活用して自社の商品・サービスや地域の観光資源等を紹介してもらったり、PRしてもらったりすることは有効です。
ターゲット層で人気のあるインフルエンサーを活用できれば、認知度の上昇だけでなく実際の訪日や来店等に繋がる可能性も高まるでしょう。
●越境ECサイトの活用
国や地域を超えたオンラインショッピングの仕組が「越境EC」であり、海外のターゲットがインターネットを介して、日本のECサイトで買物をすることができます。
越境ECに対応しておけば、訪日客が日本観光等で気に入った日本の商品・サービスを、帰国後もECからの注文が期待できるのです。越境ECサイトは大きく分けると4タイプありますが、その内では「自社の運営による越境ECサイト」と「海外のECモールへの出店」の方法が代表的です。
前者では言語や決済システムなどを現地のニーズに合わせて構築する手間が発生しますが、そうしたシステムを提供するサービス(「越境EC専用カート」等)を利用すれば構築はそれほど困難ではありません。
後者については、その国で越境ECが認められているECモールを利用する必要がありますが、その場合の出店では販売力が期待できるものの出店コストがかかります。
4-4 受入環境対策
受入環境整備への取組としては、地域・街全体等を対象とした自治体等の取組と、個別の事業を対象とする企業の取組に分かれます。
1)自治体等の取組内容
自治体等が地域の観光地などへ訪日外国人を周遊や消費へと促すために、以下のようなICT等を活用した取組を支援しているケースが多いです。
- ・観光スポットの多言語化
- ・無料Wi-Fiの整備
- ・AIチャットボットの導入
- ・混雑状況や利用状況の情報提供・共有、推奨ルートの提案
- ・キャッシュレス化
- ・公衆トイレの洋式化、洗面器の自動水栓化
- ・ワーケーション環境の整備
- ・ICTを活用したゴミ箱の整備
- ・観光案内所等の整備・改
- ・段差の解消
こうした取組が各地域で進められ、「徒歩での観光スポット・商店街巡り、食べあるき、その地域ならではの催し、夜のまちあるきなどを楽しむ環境」などの整備が促進されています。
また、レンタカーやレンタサイクルで観光スポットを巡る、滞在の価値を高めるためグランピング環境を整備する、移動を快適するためにEV急速充電器を整備する、などによりコト消費の増大に結び付くような整備も促進されているのです。
2)各企業の取組内容
観光・宿泊業・飲食業などの事業者も、訪日外国人がストレスフリーで快適に旅行を楽しめる環境や、災害など非常時においても安全・安心に旅行できるように受入環境の整備に努めています。
例えば、多言語での観光情報提供(メニュー・案内板等とスタッフの外国語対応 等)、無料Wi-Fiサービスの完備、キャッシュレス決済の対応、トイレの洋式化等、バリアフリー化の推進、感染症対策の充実、非常時における多言語対応(多言語でのデジタルサイネージ、翻訳機の設置等)、災害用トイレ等の設置、などの取組が実施されているのです。
●「湯元館」の「DXで事業課題を解決しサービス品質を向上」の例
湯元館は観光DXを進めて訪日外国人の受入環境整備を図るとともに業務の生産性を高めるため、以下のような取組を行っています。
(1)業務効率化の実現を通じたサービスの付加価値向上
- ・ ホテル旅館総合管理システム(PMS)「支配人くんNEXT」を導入して、予約管理、売上管理、顧客管理等の一元管理に活用している
- ・ 調理場システムとの連動など、現場の要望に対応できる仕様をベンダーと共同開発し、一部製品化した
(2)コロナ禍におけるDXの取組
- ・ コロナ禍でのキャンセルやキャンペーンで増加した問い合わせに対応できる観光分野特化AI チャットポット「talkappi」を導入した
- ・ お風呂の混雑状況をリアルタイムで確認できる非接触型多言語コミュニケーションツール「kotozna in-room」を導入した
5 インバウンドビジネスで起業・会社設立する際の重要点
インバウンドビジネス分野で起業・会社設立していく際の、特に重要なポイントを説明しましょう。
5-1 的確なターゲットの設定
ビジネスは、「誰を対象として商売を行うか」がそのモデルやシステムの前提となることから、インバウンドビジネスを始める際にその点を明確にしておかねばなりません。
訪日外国人を対象にするにしても、旅行ニーズや訪日の目的のほか、滞在期間や消費額・消費スタイルなどが各国・各地域においても傾向が異なります。もちろん同じ国等の人達でも様々な層・セグメントに分けると相違点も多いです。
そのため「訪日客」を一律に捉えて、商品・サービスを整えても、つまり、マーケティング施策を講じても来店者が増えず売上も伸びない、という状況になりかねません。
ビジネスは限られた資源で行うことになるため、それらを有効に使って収益を増やしていくには、最初のターゲット設定を誤らないことが大切です。
以前、「爆買い」といったまとめ買いのニーズが旺盛でしたが、コロナ禍を経て各国の経済状況も変わり、人々の消費の価値観も変容しつつあります。現在ではインバウンドにおいても「コト消費」が重視されてきたため、体験やアクティビティーを求める層をなどターゲットに加えるといった設定も必要です。
また、ターゲットを設定する場合、過度に特定の国・地域の人達に絞ることには注意しましょう。ターゲットに偏りがある場合、政治・経済の急変、パンデミックの発生、安全保障上の問題、自然災害の発生、などが生じれば、自社ビジネスを維持することが難しくなってしまいます。
インバウンド需要がまだ不安定な状態にあるため、現状では対象とする国・地域等の分散化とともに、変化しているニーズと自社の対応能力などを踏まえて柔軟にターゲットを設定しましょう。
5-2 環境変化への分析と柔軟な対応
ビジネスでの成功は企業を取り巻く環境を注視し、その状態を的確に分析して対応できる施策を講じる経営にかかっています。つまり、適切な環境分析を行いその結果に基づいた柔軟な対応が取れることが成功には不可欠です。
現在、コロナ禍で需要の大きな変化、消費者等の価値観や購買行動の変容などが起こっており、インバウンド需要の性質も変わりつつあります。この変化に対応できることがインバウンドビジネスでの成功に繋がります。
アフタコロナに向けて需要が急回復しつつあり、今、その変化に対応したビジネスモデルやそのシステムの構築が必要です。つまり、先に確認してきたインバウンド戦略に基づくマーケティング施策の実施が求められます。
しかし、新型コロナの第9波の兆候が見られはじめるなど、コロナ禍が完全に終了したとは言えない状態であり、最悪の場合は再び需要が萎む可能性も否定できません。
また、米中対立、ウクライナ問題、物価高騰、他の感染症の流行、自然災害、などにより、世界経済が悪化する事態も十分考えられ、それに伴いインバウンド需要の回復が停滞する可能性があります。
そのためそうした変化の状況を随時観察し分析する必要があるのです。そして、その結果に基づき、インバウンドビジネスの創業、事業の継続、さらなる成長に対応できる施策を模索し実施していくことが求められます。
変化に対応するために、インバウンドビジネスでの主要なビジネスモデルの確立に加えてリスクを分散させるプランも考案しておき、実施できないまでも直ぐに実行できる目途をつけておくことも必要です。
例えば、訪日外国人だけでなく日本人の観光客、消費者等を対象としたビジネスの展開、商品販売に加えてサービス提供の開始、ターゲットを集団客中心から個人客中心への変更、宿泊業に加え体験・アクティビティーの提供などを模索し実行出来る目途を立てておくことが重要になります。
一般的に創業段階では主要なビジネスモデルを確立して確実に遂行していくことが基本となりますが、大きな変化が生じ得るインバウンドビジネスでは上記のような対応も検討しておきましょう。
5-3 インバウンドビジネスの仕組の確立
ビジネス(モデル)は具体的なシステム(仕組)が組み立てられて始めて実行可能となりますが、そのシステムを構築・運用するためには、そのための資源の確保が必要です。
例えば、訪日外国人のコト消費に対応し、滞在中の不満・不安を減少させて収益の拡大を目指すなら、そのビジネスモデルに沿ったシステムを組み立てねばなりません。
地域の観光資源を活用した民宿等を経営する場合に、魅力的な食事と宿泊を提供するほか、観光地での周遊、温泉での入浴、農業・漁業体験、食品加工や調理の体験、サイクリング・スキー・ボート等のスポーツ体験、などのサービスメニューを用意して提供する、というシステムが考えられます。
そして、そのシステムを実現するためには、従業員やサービス提供者(協力者・パートナー)の確保、ガイド・インストラクター等の確保と外国語対応、利用状況の確認、サービス案内や予約・受注等の多言語対応、などの資源の準備が必要です。
なお、システムに必要な資源を自社だけで確保できない場合は、事業の範囲を縮小する、他者との協力や自治体との連携などで用意する、といった対応が求められます。
5-4 インバウンドビジネスでの許認可等
インバウンドビジネスを開始する場合、業種や業務によっては許認可等を受けておく必要もあるため事前に調べて早めに取得しましょう。また、事業の拡大やリスク分散などを目的とした対応を行う場合にも許認可等が必要となることもあります。
例えば、免税販売店となることは訪日客の集客で有利になりますが、そのためには免税販売店の許可を受けねばなりません。免税販売店(「一般型消費税般型消費税免税店」等)になるには、納税地の所轄税務署に申請書を出して審査を受け免税店の許可を受ける必要があります。
「ホテル・旅館」などの事業を始め宿泊サービスを提供する場合、都道府県や保健所から旅館業法に基づく許可を受けねばなりません。「民泊サービス」を提供する場合は、年間180日以内の住宅宿泊事業なら届出で開業することが可能ですが、180日を超える場合は旅館業法に基づく許可が必要です。
また、宿泊施設を設置して有料で宿泊させる「グランピング事業」も旅館業法の対象となり許可を受ける必要があるため注意しましょう。
飲食店を始める場合、管轄の保健所に申請し審査に合格して営業許可を受けなくてはなりません。営業許可を得るために必要な条件は、「食品衛生責任者の設置」と「営業許可証の取得」の2つです。
なお、飲食店で開栓済みのビンや樽から酒類を提供する場合は、飲食店営業許可の範囲になるため、酒屋等の小売業で必要となる酒類販売業免許の取得は必要ありません。酒類の販売には「酒類小売業免許」や「酒類卸売業免許」などの取得が必要となるため注意しましょう。
レンタルサイクルを開始する場合、事業の内容(中古自転車の利用等)によって自治体への登録が必要なケースなどがあります。地域によって内容が異なるため事前に確認することが必要です。
以上のようにインバウンドビジネスでも事業・業務によって許認可等が必要となるケースも多いため、早めに確認して取得しましょう。
6 まとめ
インバウンド需要が急回復しつつあるため、インバウンドビジネスへの新規参入や再チャレンジを検討する人は少なくないでしょう。しかし、コロナの第9波の可能性、中国経済および世界経済の悪化の懸念、安全保障上の問題、などがあり、今後のインバウンド需要の動向には注意が必要です。
また、コロナ禍を経てその需要の中身にも変化が見られ、今後は「爆買い」などのモノ消費からコト消費の需要拡大に向けた対応が一層求められます。加えて訪日外国人のリピーターを増やすためには、受入環境のさらなる改善にも努めなければなりません。
コロナ禍以前とは状況が異なることを踏まえてアフタコロナ下でのインバウンドビジネスを検討してみてください。